今日、国際人権条約は、平時だけでなく武力紛争時においても適用されると一般的に理解される。ここから、国際人権条約は占領・軍事活動が行われている地域についても適用されるといえそうだが、実際には、国際人権条約当事国の関与の下で占領・軍事活動が行われている地域について、常に当該人権条約の属地的適用が認められてきたわけではない。占領・軍事活動が国際人権条約の属地的適用にいかなる影響を与えるのかは依然として不明瞭であり、理論的・実証的な分析が求められる。 そこで、本研究では、第一に、条約当事国が自国領域外で占領・軍事活動を行う場合、ついで、第二に、他国または反乱団体による占領・軍事活動の結果、条約当事国が自国領域の一部地域について実効的支配を失う場合、それぞれ国際人権条約の属地的適用の可否がどのように決定されるのかを検討した。このうち、平成30年度は、後者の場合について検討を行い、国際司法裁判所および国際人権条約の履行監視機関等の判決、決定、意見等に関する資料と、国内外の関連文献を収集・分析した。また、その研究成果として、欧州人権条約の「管轄」概念の意味について論じる論文を執筆・公表した。加えて、本研究に関連するテーマで、いくつかの研究会において研究報告を行った。 以上の研究により、国際人権条約の属地的適用において、占領・軍事活動が有する意義の一端を明らかにできたと考える。平成30年度の研究に関していえば、他国または反乱団体による占領・軍事活動の結果、条約当事国が自国領域の一部地域について実効的支配を喪失した場合であっても、その国は当該地域について国際法上の統治権能を保持し続けるため、依然として当該地域に所在する者に対して人権条約上の権利保障義務を負うと考えられることが分かった。
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