スギ黒点病菌(Sydowia japonica)は、スギ雄花を選好的に枯死させることから、本菌を微生物農薬として利用したスギ花粉に飛散抑制技術に期待が高まっている。本菌をスギ花粉飛散防止剤として実際に施用するには、在来の菌類個体群への影響を最小限に抑えるための方策を講じる必要がある。そのためには、国内に分布する本菌の遺伝的多様性を把握しておかなければならない。 本研究は、スギ黒点病菌のマイクロサテライトマーカーを用いて、日本国内における本菌の遺伝的多様性と個体群集団の遺伝的構造明らかにすることを目的とする。さらに、先行研究として情報が蓄積されている宿主・スギの遺伝的構造と本菌の遺伝的構造を比較することで、両者の関係を明らかにすることを目的とする。 本年度は、スギ黒点病の一次感染が起こる11月頃から、スギ花粉が飛散し終わる3月頃までの期間に、スギ黒点病の発生調査と罹病雄花の採取、並びに菌株の確立を行った。先行研究でTsumura et al.(2014)がスギ天然林の遺伝的構造を調査した14地点のうちの8地点と、本菌が過去に採取されたことのあるスギ人工林の3地点で調査を行い、7地点で本病の発生を確認した。本病に罹病した雄花を採取して実験室に持ち帰り、組織分離して出現した菌叢の外観からスギ黒点病菌を選抜し、菌株として確立した。得られた菌株は遺伝資源として-80℃で凍結保存するとともに、順次液体培養してDNAを抽出した。次年度以降は、基盤研究(C)へ課題を引き継ぎ、残りの調査地からの菌株採集と、マイクロサテライトマーカーの作成をすすめ、本菌の遺伝的多様性と遺伝的構造の解析を行っていく予定である。
|