研究課題
本研究では電子系のパリティ揺らぎに由来する超伝導発現機構をもつと予想されるパイロクロア酸化物Cd2Re2O7に注目した。この物質は自発的に空間反転対称性を破る構造相転移を示し、低温では常圧下でTc = 1 Kの超伝導を示す。この構造相転移は強いスピン軌道相互作用による電子系の不安定性に駆動されたネマティック相転移と考えられ、このゆらぎを媒介としたp波超伝導の発現が高圧下で予想されている。高圧下では対称性の異なる複数の構造相をもち、それぞれの相で超伝導相転移温度が異なることから、電子状態と超伝導の関係性を理解する上で絶好の舞台である。そこで、高圧下の電子状態を量子振動の測定で明らかにすることが最終的な目的である。高圧下の電子状態を理解するためには、そのベースとなる常圧下の電子状態を理解する必要があり、初年度は常圧下の量子振動の測定に注力した。構造相転移にともない3種類の正方晶ドメインが形成されるため、それぞれのドメインに由来する量子振動の総和を解析しなければならない。そのため、量子振動は物性値の種類によって観測されやすい振動数が異なることを利用して、観測される振動数の数をかせぐことで解析の信頼性を確保した。測定はNIMSの20T超伝導磁石をもつ希釈冷凍機と米国NHMFLの水冷銅磁石をもつ3He冷凍機を用いて行い、磁気トルク、電気抵抗、交流磁化の3種類の物性値の量子振動を観測した。第一原理計算による電子状態を参考に解析した結果、主要なバンドに由来するフェルミ面のサイズを概ね明らかにすることに成功した。さらに、ホールバンドのスピン分裂にともなうエネルギー利得が構造相転移の駆動力となりうることを確認した。これは構造相転移が強いスピン軌道相互作用に由来する電子系の不安定性によって駆動される理論予想を裏付けるものであり、この物質の電子状態を理解する上で非常に重要な情報である。
3: やや遅れている
当初の想定よりも電子の有効質量が重く、より高い精度での測定が必要となった。通常の銀ペーストを用いた端子付けの方法では良質な電気的な接触が得られず、有効な方法を確立するために時間を要した。実験結果と第一原理計算で得られる電子状態の差が大きいため、常圧相の電子状態を理解するのに時間がかかってしまった。
常圧の量子振動測定で培った技術や得られた結果を踏まえ、高圧下の量子振動測定を行う。異なる計算条件や構造最適化を試み、実験結果にできる限り近い電子状態を得られる計算方法を探す。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 87 ページ: 053702~053702
10.7566/JPSJ.87.053702