研究課題
本研究ではパイロクロア酸化物Cd2Re2O7に注目した。この物質は自発的に空間反転対称性を破る構造相転移を示す。この構造相転移は電子系に駆動されていると考えられ、そのゆらぎが超伝導の発現機構に関係していると予想されている。この物質の物理を理解するためには、まずは電子状態を詳細に明らかにすることが不可欠である。昨年度分までの研究により、この物質の常圧下における量子振動を精密に測定することに成功した。しかし、報告されている結晶構造パラメーターを用いた密度汎関数法(DFT)による電子状態計算では、量子振動で観測されたフェルミ面の再現性が低いことが問題であった。例えば、DFTで構造最適化された原子変位は実験値よりも1桁大きく、対応するフェルミ面は実験結果と大きく異なる。また、サイクロトロン有効質量の実験値とDFTの値の比は、電子格子相互作用の強さを反映して通常は1から2の値をとるが、これを大きく超えた6という値が得られていた。この乖離は電子相関が強いことを示唆している。そこで、電子相関の効果を取り入れたDFT + U + Jの計算手法を用いながら構造最適化を行うプログラムを新たに実装した。このプログラムを用いて様々なUの値で構造最適化を行い、フェルミ面を検証したところ、U = 4.5 eVという強い電子相関をともなう条件で観測されたフェルミ面を忠実に再現できることを突き止めた。さらに、Uの増加にともなって安定な原子変位の大きさは小さくなることが分かった。この結果は電子系の不安定性が電子相関にアシストされていることを示している。最終的に明らかとなったCd2Re2O7の電子状態や計算によって忠実に再現するレシピは、実験で観測さている電気伝導度の異方性を議論したり、高温相や高圧相の物性を議論したりする上で非常に重要な情報である。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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Physical Review B
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