原子力発電所のライフサイクルを簡略化すると,建設や運転などを含めた計画立案,実際の建設,発電運転,廃止措置という4つに分割できる.廃止措置の完了例は日本で1例,それ以外では世界で16例ある.現在,世界的にも原子力の黎明期から運転されてきた炉は続々と廃止措置に入っており,156事例で廃止措置が進んでいる.近年の廃止措置ではより安全で効率的な工法やプロジェクト管理など様々な点で検討されている.一方,原子力の廃止措置は既存の設備を維持しながら,除染と汚染の防止対策を実施しながら徐々に解体する点に特徴がある.そのため,解体や除染の知識や技術だけではなく施設内の設備系統や発電運転時の知識や経験も必要とされ,全体として多くの情報を扱う必要がある.
本研究においても,社会調査を通じて,運転時の知識や経験を活用して廃止措置業務に当たっていることを明らかにした.また,情報の多くはマニュアルや各種資料として作成されており,所謂,ドメインに依存する宣言的知識とも呼べる側面を有していることが分かった.一方で,未保存の情報として口伝及び口頭で伝達される知識,形式的表現が困難な属人的な知識に関しては十分に表出化されていない部分もあることが明らかになった.こうした点も踏まえて,顕在化のガイドラインとして言語的表現や身体的表現といった知識の概念化や捉え方と,ソフトウェア支援として廃止措置で扱う情報を俯瞰的に把握するようなアプリケーションを活用することで,顕在化に貢献できる点が示唆された.
このように廃止措置においては,種々の多様な情報を扱うことが必要であり,単純な分類であるタクソノミーだけでなく,より厳密な概念化であるオントロジーを応用するなど横断的な研究課題もある.そして,社会的性質の側面も持つプロジェクトでは,分野に囚われない知識の統合や意思決定など様々な点も包摂される課題と言える.
|