研究課題/領域番号 |
17H07357
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 特別研究員 (80804202)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / コミュニティ検出 / モデル化 / アルゴリズム設計 / 数理最適化 |
研究実績の概要 |
平成 29 年度においては,本研究課題の進展に寄与する二つの成果を得た.
一つ目は,コミュニティ検出の「モデル化」に関する成果である.コミュニティ検出法を設計するときには,頂点部分集合に対する評価関数を定義し,その評価関数を最大化するアルゴリズムを設計することが多い.頂点部分集合の内部(のみ)に注目する評価関数としては「密度」が標準的であり,頂点部分集合の境界(のみ)に注目する評価関数としては「コンダクタンス」が標準的である.本研究では,頂点部分集合の内部と境界の両者を考慮する,新たな評価関数を導入した.具体的には,密度をベースとして,カットが大きいとペナルティを付すような評価関数となっている.
二つ目は,コミュニティ検出の「アルゴリズム設計」に関する成果である.上記の評価関数を最大化する最適化問題に対して,密グラフ抽出で知られているアルゴリズム設計の枠組みを拡張することで,厳密解法と精度保証付き近似解法を設計した.具体的には,線形計画法を用いた厳密解法と,Greedy peeling を用いた精度保証付き近似解法である.どちらの枠組みも,密グラフ抽出の文脈では広く利用されてきたが,頂点部分集合の境界も考慮する文脈では利用されてこなかった.実験的評価では,提案手法で得られる頂点部分集合が,密度を最大化したときに得られる頂点部分集合と比較して,同程度の密度と非常に小さいカットをもつことが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,コミュニティ検出の「モデル化」と「アルゴリズム設計」の両者に対して,それらを行うための枠組みを構築し,コミュニティ検出に対する数理最適化によるアプローチの改善を,統一的かつ体系的に行えるようにすることである.
モデル化の枠組みの構築の側面では,これまでに,頂点部分集合の内部と境界の両者を考慮する,新たな評価関数を提案している.これ自体は一つの評価関数であり,枠組みを与えているわけではない.しかしながら,実験的に非常によい頂点部分集合を検出できることから,評価関数に対する公理系の導出で重要な役割を果たすことが期待できる.
アルゴリズム設計の枠組みの構築の側面では,これまでに,以下の二つの成果を得ている.一つは,密グラフ抽出で知られている数理計画法を用いた枠組みの,コミュニティ検出への拡張である.密度の最大化に対しては,線形計画法を用いた枠組みが知られているが,これを頂点部分集合の境界も考慮するように拡張した.これにより,上記の評価関数に対する厳密解法を導出できる.もう一つは,密グラフ抽出で知られている Greedy peeling の拡張である.Greedy peeling とは,ネットワークの最小次数頂点を逐次的に除去していき,そこで現れた頂点部分集合のなかで,目的関数値が最大となるものを出力するという枠組みである.本研究では,除去する頂点を決定するときに,内部への次数の小ささだけでなく,外部への次数の大きさも考慮するような,新たな Greedy peeling を設計している.これにより,上記の評価関数に対する精度保証付き近似解法を導出でき,実験的にも非常によい性能をもつことが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り,コミュニティ検出の「アルゴリズム設計」の枠組みの構築に対しては,これまでに,計画通りの研究成果を得ることができている.よって,平成 30 年度は,「モデル化」の枠組みの構築に注力していく.具体的には,上記の評価関数の性質を解析することで,評価関数がもつべき性質を見出し,評価関数の公理系の導出を行う.また,これに加えて,評価関数の限界の解明や評価関数の整理を行っていく.
本研究課題の推進によって有意義な成果を得るためには,最適化やデータマイニングの分野において望まれている成果を正しく把握する必要がある.これらの分野の研究は,欧米を中心に行われているため,そこで開催される国際会議やワークショップなどに参加し,各国の研究者との交流を図っていきたい.また,国際会議などの場に限らず,国外のトップ研究者を個別に訪問する機会を見つけ,本研究課題の推進に資する知見を獲得したい.
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