次世代の量子情報通信技術の実用化に向けて求められている単一光子発生源では、単一光子の生成効率が高いことと同時に、実用に適した動作温度と発光波長を有し、さらに電気駆動が可能であることが重要である。そこで近年、カーボンナノチューブの持つ特徴的な性質を利用した単一光子源の開発が注目を集めている。本研究ではカーボンナノチューブにおける励起子拡散の特性、特にナノチューブの一次元性に起因する高効率な励起子-励起子消滅を利用して、室温中での通信波長帯における高効率な単一光子生成を実現する。さらに、ミクロンスケールでこれが起こることを利用して、デバイス構造を取り入れることで励起子の電気的な生成を行い、電気駆動の単一光子源を実現することを目指す。 平成30年度は、自作の顕微分光測定および時間分解測定システムを用いて、単一光子生成機構のカギとなるカーボンナノチューブ中の励起子ダイナミクスを詳細に調べた。その結果、励起子の発光寿命や拡散係数がナノチューブの構造だけでなく、パリティの偶奇によって生じる励起子状態の違いによっても大きく異なることが明らかとなった。特に、奇パリティを持ち発光に関与できる明るい励起子状態に比べ、偶パリティで光学禁制な暗い励起子は一桁以上も長い寿命および拡散長を持つことがわかった。このような特異な励起子物性を利用することで、非常に高効率な単一光子生成デバイスの実現につながると考えられる。 また、励起子の局在化による単一光子生成のアプローチとして、ドープしたカーボンナノチューブとシリコン微小共振器との結合を試み、室温中で高純度かつ高輝度な単一光子生成を達成した。シリコン基板上での高品質な単一光子発生源は、デバイス微細加工やシリコンフォトニクスの技術と融合させることにより、チップ上に集積化した量子デバイスの実現につながることが期待される。
|