研究課題/領域番号 |
17H07362
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤 陽平 国立研究開発法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 基礎科学特別研究員 (50802732)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / トポロジカル秩序 |
研究実績の概要 |
本年度は、カゴメ格子上の反強磁性体における基底状態での量子スピン液体状態に対して、その有効理論を導出した。特に、時間反転対称性を破るような3体相互作用を持つ模型について、スピンのIsing異方性が強い極限におけるボゾンの格子ゲージ理論による定式化と、擬1次元的な極限における非摂動的な場の理論的手法を組み合わせ、有効理論がゲージ場と強く結合した4種類のDiracフェルミオンで記述できることを発見した。このスピン液体状態では、スピン1/2を持った素励起(スピノン)がフェルミオン的に振る舞うことを意味し、模型のパラメータに応じてスピノンが様々な励起構造を持つ。 本研究で用いた方法は、量子スピン液体状態を調べるための典型的な手法である平均場的な取り扱いとは本質的には異なり、特定の状況下ではあるが相互作用を完全な形で取り扱うことができるため、既知の方法では解析が困難であった模型への新たな応用の可能性がある。また、これまでに平均場的手法によって得られている状態とは異った新奇な量子スピン液体状態を発見できる可能がある。本研究では特に、模型に大局的な時間反転対称性がある場合に、スピノンのギャップレス励起が運動量空間で線状に配置し、空間的に局在したような特殊な励起構造を示すことを発見した。このようなギャップレスの量子スピン液体状態が既知のスピン液体と異なるものであれば、本研究の手法が新たな量子相を構成する上でも有効であることを示すことになるので、今後重点的に調べていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画で予定していた範囲では、カゴメ格子上の反強磁性体における量子スピン液体状態の有効理論を得るところまでは達成された。しかし、その有効理論における対称性の役割、特にスピノンの分散と空間対称性の関係性についてはまだ解明に至っていない。これは主に、スピノンが本質的に非局所的な粒子であることからくる技術的な困難によるものであるが、現時点では一定の解決の目途が立っており、今後進展すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
最も重要で基本的なステップである量子スピン液体状態の有効理論の導出は達成されたため、今後はその物理的性質、特に結晶対称性の役割を解明することが重要となる。これはスピン液体状態の安定性を議論するために必要な解析であるだけでなく、発見したスピン液体が既知のものであるかを確認する上でも重要となる。結晶対称性に基づく電子構造の分類は近年目覚ましい進展があるため、これらの知見も援用しつつ解析を進めたい。これらの研究を足掛かりにして、より実験的に実現しているカゴメ反強磁性体に近い模型への適用を目指す。
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