前年度に引き続き、カゴメ格子上の反強磁性体におけるスピン液体状態に対する有効理論の研究を進めたが、今年度はそれと並行して行っていた分数量子Hall状態の量子細線による微視的な構成の研究に大きな進展があった。 この研究は、前年度に行ったHarvard大学での滞在中に行った議論から着想を得ている。研究の対象としている分数量子Hall状態はトポロジカル秩序相の1種であり、強く相互作用する量子多体系において発現し、通常の粒子とは異なる統計性に従う準粒子励起を持つなど、スピン液体と共通する性質を持つ。我々は、そのような分数量子Hall状態を1次元的に閉じ込められた電子系、つまりは量子細線の接合系から構成する方法を提示した。特に、そのような量子細線の系において、磁束量子と結合した電子である複合フェルミオンや複合ボゾンの物理的描像が自然に現れることを発見した。そのような複合フェルミオンの絶縁体や金属あるいは複合ボゾンのボーズ凝縮体を考えることで、2次元電子ガスにおいて実験的に観測されているような分数量子Hall状態の階層状態や、複合Fermi液体、非可換な統計性を示すPfaffian状態などを記述する量子細線の模型が系統的に得られることを発見した。 また、以上の研究の他に、3次元において点状の準粒子とループ状の準粒子が非自明な統計性を示すトポロジカル秩序相を、量子細線の接合系から構成する方法を発見した。これらの研究は、相互作用する多体系において、トポロジカル秩序相を微視的に実現する上での1つの指針を与えると期待している。
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