クロマチン構造は遺伝子発現の分子基盤であり、多能性幹細胞の樹立やガンの抑制などエピジェネティクス制御の対象として近年注目されている。クロマチン構造は単量体のアクチンタンパク質を構成因子としたクロマチンリモデリング複合体によって制御されている。 これまでの申請者の研究から、細胞核内において、単量体だけではなく重合したアクチン繊維もまたクロマチン構造変換を介した遺伝子発現制御に関与することが示されている。この核内アクチン繊維の形成誘導手法として、アクチン標的薬剤の処理、外来遺伝子の導入法の二つの手法を確立した。しかし前述の手法では、細胞核のアクチンのみ繊維化することは不可能であり、細胞質の過度なアクチン繊維形成による細胞毒性が問題となった。そこで本研究では、細胞核内のアクチン繊維を誘導する新たな手法として、電波と光の中間領域にその周波数を持つテラヘルツ(THz)光に注目した。THz周波数帯の光はその吸収が分子間結合に一致する。そのため、高強度なTHz光による共鳴により、分子を変性することなく高分子構造のみ変換できると考えられている。生体から精製したアクチンの繊維形成過程においてTHz光を照射したところ、顕著な影響が認められた。この影響について、周波数帯の依存性を検討するため、異なる光源を使用した照射影響の解析を行っているが、少なくともTHz周波数帯の光がアクチン繊維構造に影響を及ぼす可能性が示唆されている。今後は、細胞内のアクチンおよびクロマチン構造へTHz光が及ぼす影響を解析する。
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