研究実績の概要 |
研究代表者はこれまで、薬剤投与により細胞核に人為的なアクチン繊維を形成させることで、クロマチン構造の変換、さらに多能性幹細胞の樹立に必須である初期化遺伝子の発現誘導に成功した。一方で、従来の薬剤投与では細胞毒性が問題となった。そこで、より細胞毒性が低いクロマチン構造の変換技術として、高分子構造変換を誘起するテラヘルツ(THz)波に注目した。THz波の周波数帯は、タンパク質やDNAの分子間振動と一致し、さらに高い物質透過性を持つことから、X線に代わる安全な非破壊検査用光源として生体イメージングへの応用が期待されている。また、THz波の光子エネルギーは紫外・可視光と比べて非常に弱く、分子の多光子吸収によるイオン化を誘起しないため、高強度なTHz波による共鳴により、分子を変性することなく結晶やタンパク質の高次構造のみ変換できると考えられている。近年、分子間振動や格子振動を励起可能な高出力THz波光源が開発された一方で、これまでTHz波照射による細胞内のタンパク質高次構造操作や機能制御を目的とした研究は行われていない。そこで本研究では、生体から精製した後も高分子(繊維)構造を形成可能である精製アクチンタンパク質を用いて、THz波照射の影響を解明した。テラヘルツ波の光源には福井大学のジャイロトロン(0.5 THz, 0.6 mW/cm2)を利用した。水溶液中のアクチンが繊維化する過程で高強度THz光の照射を行った結果、アクチンの繊維形成が促進されることを見出した。一方で、繊維構造に変性や凝集などの異常は見られなかった。これらの研究成果は、THz波がアクチン繊維など生体内高分子の人為的制御に利用できることを示唆し、将来的な生命現象制御手法としてTHz波技術の応用可能性を示している。
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