哺乳類の胎盤は、着床直後の胚盤胞外縁の栄養外胚葉に由来する。このため、初期の胎盤形成には、栄養外胚葉由来の栄養膜細胞の増殖と分化のバランスが極めて重要である。本研究では、マウスの胎盤低形成モデルである体細胞核移植胚 (クローン胚) を用いた、初期胎盤の栄養膜細胞の増殖と分化の制御メカニズムの解明を目的とする。 クローン胚では初期胎盤の低形成が観察され、着床率や出生率も低い。本研究では、それらの異常の原因が「胎盤を構成する栄養膜細胞(内因性)」にあるか「胎仔性因子(外因性)」にあるかを解明するため、クローン胚にES細胞を注入することでキメラ胚の作出および解析を試みた。胚盤胞への注入にはGFP (緑色蛍光タンパク質) を発現するES細胞を用いることで、胎子組織へのES細胞の寄与を確認した。体外受精胚、通常のクローン胚、ES細胞を注入したクローン胚 (キメラ胚) を胎齢9.5日にそれぞれ採材し組織切片を作製した。作製した切片に対して、抗GFP抗体、未分化な栄養膜細胞のマーカーである抗TPBPA抗体、分化が進んだ栄養膜巨細胞のマーカーである抗PL1抗体および抗PLF抗体を用いて免疫組織化学を行った。まず抗GFP抗体を用いてキメラ胚の染色を行い、胎子組織がGFP陽性を示すキメラ胚を用いて以下の結果を得た。 TPBPA陽性の胎盤領域は、体外受精胚と比較してクローン胚で減少していたが、キメラ胚の中にはクローン胚よりも広いTPBPA陽性の胎盤領域を示すものが観察され、キメラ胚ではクローン胚で見られる組織学的異常が改善する傾向が得られた。PL1、PLFの陽性領域に関しては、通常のクローン胚とキメラ胚との間で顕著な差は認められなかった。以上の結果から、クローン胚の異常は「胎盤を構成する栄養膜細胞」のみならず「胎仔性因子」にも起因している可能性が示唆された。
|