本年度は、炎症モデルマウスで還元力供給を増強もしくは減弱させた場合の12/15-リポキシゲナーゼ (LOX) 活性の評価に取り組んだ。還元力供給が強化されたKeap1ノックダウンマウス、減弱されたNrf2ノックアウトマウスを導入し、IL-33誘導性喘息モデルを使って、炎症の度合いの評価および脂質メディエーターの産生量を調べた。気管支肺胞洗浄液中の総細胞数を指標として炎症を評価したところ、野生型マウスに比べてKeap1ノックダウンマウスでは炎症は減弱し、Nrf2ノックアウトマウスは増悪するという予想通りの結果を得た。そこで、肺の好酸球をソーティングし、ex vivoでのメディエーター産生量評価実験を行ったが、野生型マウスとの間に差は見られなかった。これは、12/15-LOXの活性が失われやすく、肺のコラゲナーゼ処理や好酸球の単離過程で失活してしまったことが原因であると考えられた。そこで、12/15-LOXの有無で中心炭素代謝の還元力再生反応の活性に差異があるのかを13C標識グルコースでトレースできる13C代謝フラックス解析法を利用し、詳細に解析する方針に変更した。ザイモサン誘導性腹膜炎モデルでの腹腔滲出細胞から好酸球を迅速に回収、ex vivoで[1-13C]標識グルコースおよび多価不飽和脂肪酸を添加培養し、解糖系とPP経路の分岐比を調べた。その結果、12/15-LOXノックアウトのマウス由来の好酸球では解糖系とPP経路のフラックスの分岐比が41:59であったのに対し、12/15-LOXを有する好酸球では同分岐比が30:70と、PP経路へのフラックスの割合が増加していることが分かった。これは、12/15-LOX代謝物が産生される過程で生じる過酸化物を代謝するために必要なNDAPHの再生を増加させるためにPP経路を活性化させたことが示唆された。
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