平成30年度は、平成29年度に引き続き、コミュニケーションの満足度をアウトカムとして設定したうえで、即時的回答法(Ecological momentary assessment)を用いた測定を8名の吃音のある成人に対して実施した。データ分析の結果、ネガティブ感情は、吃音症状やそれに対する対処(「流暢に話そうとする」「吃音に注意が奪われる」など)・コミュニケーションの満足度と関連する一方、ポジティブ感情はコミュニケーションに対する集中やコミュニケーションの満足度と関連する可能性があることが明らかとなった。このことは、吃音のある成人に対して、ネガティブ感情・ポジティブ感情の影響を考慮しつつ、認知行動療法的な働きかけを行うことが有効である可能性があることを示唆している。 さらに、吃音のある成人の社交不安の特徴を明らかにするため、328名の吃音のある成人のLiebowitz社交不安尺度(LSAS)の回答に対して因子分析を行った。その結果、吃音のある成人のLSASの因子構造は(吃音のない)不安症のある人とは異なること、また、吃音のある成人の社交不安は、主に発話を伴わない場面では低く、電話場面で高まることが明らかとなった。このことは、吃音のある成人の社交不安の臨床症状は、(吃音のない)不安症のある人とは異なり、その特徴に合わせた治療アプローチが必要であることを示唆している。加えて、LSASを含む様々な質問紙を用いて、吃音のある成人245名のデータに対する統計解析を行ったところ、吃音のある成人の社交不安はコミュニケーションの困難と直接的な関連が強いことがわかり、社交不安の緩和にはコミュニケーション困難を緩和させることが有効であることが示唆された。 これらの研究成果は、吃音のある成人の社交不安の特徴を明らかにするとともに、日常生活の社交場面における病態理解を行った点で意義がある。
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