研究実績の概要 |
本研究は,化石として保存性が高い貝類を用いて,現世での多様性が特に高いフィリピン諸島を対象に,更新世の化石種を徹底的に記載分類してカタログ化し,その多様性の全容を明らかにすることが目的である。本年度は以下の成果が得られた: 1) 昨年度未完了であった撮影機材を導入し,研究遂行に必要な環境構築を完了させた。 2) データ不足であったルソン島において2019年2-3月にかけ現地調査を実施し,中部西岸ラユニオン地域の更新・完新統などから多数の試料を得た。注目されるのは,完新統の無名層から得られたサザエ類化石である。その地層は1万年-0.4万年前前後と極めて新しいが,これは絶滅種と判断される可能性が高い。絶滅種であるならばその消長は当該地域の急激な陸化イベントと同期している可能性があり,詳細な検討を進めている。 3) 2018年9月にニューカレドニアにおいて実施された生物多様性調査に参加し,インド-西太平洋区の東縁にあたる海域より,Gourmyaなどニューカレドニア周辺にのみ生き残っている種類などの現生比較資料を得,フィリピン諸島産化石標本の鑑定精度を高めた。 4) レイテ島産の更新統貝化石650種に基づき多様性解析を行った結果,最大種数は1,358種と推定された。これは現在の種数と比較してやや少ない程度の高さと言え,更新世の多様性は従来の見解に反し,より高いことが明らかとなった。 5) 現生種として鑑定されたものは,現在のフィリピン諸島周辺に固有な種があるいっぽう,現在の南日本のみならずフィリピン諸島周辺諸国に分布する種類とも共通性が高い。フィリピン諸島産の鮮新-更新世中期頃の化石群集は多くの絶滅種を含むことから,更新世の中頃までにはコーラル・トライアングルの多様性を特徴付けるところの貝類相がフィリピン諸島に成立していたと考えられる。
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