機械学習手法の中でも近年、画像処理や言語処理で大きな成功を収めている深層学習を、創薬研究に応用する研究を行った。計算機を用いた創薬の応用としては主に、薬剤と生体内のタンパク質の相互作用を、大量の薬剤候補から高速かつ高精度にスクリーニングすることが重要である。この予測を、深層学習で行うのが目標である。しかしながら、画像処理や言語処理におけるデータとは違い、創薬では薬剤とタンパク質という異なる構造を持つ2つデータを同時に扱う必要があり、これらを柔軟に扱う深層学習の手法を新たに開発する必要がある。そこで、グラフ構造と配列構造の2つの深層学習手法を組み合わせて、高精度かつ高速な薬剤スクリーニング手法を開発した。この成果は、バイオインフォマティクス分野の国際ジャーナルであるBioinformaticsに採択された。同時に、開発したソフトウエアを一般に公開した。さらに、この成果を基に、製薬会社などの企業、大学、研究機関の集まる創薬インフォマティクス研究会において、講演を行った。この講演と、開発・公開したソフトウエアをきっかけに、実際に製薬会社と共同研究を行うことになった。論文執筆時は、創薬のパブリックなベンチマークデータセットを用いて手法の評価を行うだけに留まっていたが、製薬会社では実データを用いてより実践的に手法の評価、さらにはそのアップデートが可能となると考えている。このように研究実績としては、基礎の部分である手法の考案から行い、論文採択とソフトウエアの公開、そしてそこから企業との共同研究という、産業応用までの一連の流れを作ることができた。
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