運動を始めようとすると、脳は運動指令だけでなく循環指令(セントラルコマンド)を発することで、見込み的に循環応答を引き起こす。この現象はよく知られているが、その神経回路は未解明である。本年度は「中脳腹側被蓋野(VTA)を含む神経回路が自発的な運動および付随する循環応答を引き起こす」という仮説を検証した。麻酔下ラットにて以下三つのレベルで除脳を行った:中脳前レベル(終脳・間脳除去)、中脳腹側レベル(終脳・間脳・中脳背側除去)、中脳尾側レベル(終脳・間脳・中脳吻側除去)。上述の除脳後に筋弛緩薬を投与し、各除脳が自発的な運動発生とそれに付随した循環応答に与える影響を調べた。中脳前レベルと中脳腹側レベルでの除脳ではVTAが残存し、自発的な運動とそれに付随した循環応答が生じた。一方で、中脳尾側レベルでの除脳ではVTAが消失し、自発的な運動・循環応答は発生しなかった。さらに、少数例ではあるが、VTAへのGABA-A受容体作動薬(muscimol)投与により自発的な運動とそれに付随した循環応答が消失するという結果も得られた。これらの結果から、中脳腹側領域にあるVTAが自発的な運動発生および付随した循環応答に重要であることが示唆された。実際の自発的な運動開始時にもVTAを含む神経回路が活性化し、見込み的な循環調節を行っているかもしれない。
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