当該年度は、まず表面弾性波による閉じ込めポテンシャルの強化に取り組んだ。表面弾性波は、IDTと呼ばれる櫛形電極に櫛の周期と音速から決まる共鳴周波数の高周波電圧を印加することで発生する。ここでは、(1) より強度の大きな表面弾性波の発生による、深い閉じ込めポテンシャルの実現、及び、(2) より短い波長の表面弾性波の励起による狭い閉じ込めポテンシャルの実現の2つの方向からポテンシャルの強化を図った。具体的には、IDTの特性インピーダンスを高周波回路の特性インピーダンスと整合させる回路を組み込むことにより、10 dB程度の強度の増幅が得られることがわかった。また、GaAsより圧電特性の大きなZnO上にIDTを作ることで一桁程度の強度の向上が見込まれるため、ZnOを用いた試料作製プロセスの開発に取り組んだ。さらに、波長の短い高次の表面弾性波を効率良く励起できる新たな構造を持つIDTを作製した。 上記のポテンシャル強化と並行して、単一電子を用いた量子電子光学において核となる技術である、異なる単一電子源の同期技術の向上を図り、98%程度の高確率で制御をすることに成功した。さらに、結合量子細線と呼ばれる2本の平行な量子細線が量子力学的なトンネル障壁を介して繋がった構造において、単一飛行電子のコヒーレントな振動の兆候と考えられる信号を得ることに成功した。それらの成果については、3月にアメリカのロサンゼルスで行われたアメリカ物理学会の3月会議で発表を行った。また一方で、本研究を発展させて取り組む予定である次年度からの若手研究の研究課題に向け、単一飛行電子に対する位相制御器を実証するための試料の設計、及び作製を行った。
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