研究課題/領域番号 |
17H07405
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
長谷川 豊 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (70802750)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 天文学 / 電波 / サブミリ波 / 広帯域 / 導波管回路 / 接続フランジ / 高精度 |
研究実績の概要 |
100 GHz を超える高周波数帯の電波天文観測装置として広く用いられている超伝導ヘテロダイン受信機における近年の開発課題は、比帯域 50% 程度への観測可能帯域幅の拡張と高周波数化・高性能化である。この一例として、国立天文台などで取り組まれている ALMA band 7+8 開発が挙げられる。本開発では 従来各 band 毎に最適化されていた受信機システムのうち、band 7 及び band 8 の両帯域をまとめた 275-500 GHz の全帯域を一台でカバーする受信機システムの実現を目指している。本開発では、特に導波管直交偏波分離器 OMT のような従来狭帯域であったデバイスの、物理限界に迫る広帯域化が課題であった。 そこで本研究では、275-500 GHz OMT を実現するための問題点と考えられた、規格接続フランジの位置決定精度不足、サイズ制限、接続面の平面度不足等の問題を解決するために、従来の約 1/2 サイズで、3 倍程度高い位置決め精度を持つ、新たな接続フランジの開発を行った。本年度、480 GHz 帯にてこの新型フランジの試作評価を行い、目標としていた位置決定精度 3 μm以下が寸法測定上、電気的性能測定上の両面で確認され、新型フランジの設計思想が妥当である事が確認できた。この新型フランジはほとんどのサブミリ波帯導波管デバイスにおいて有効であると考えており、今後業界への周知と普及化に務めたい。 また、申請時点では比帯域 54% ほどが達成されていた広帯域対応 OMT の構造モデルの特性改良を行い、最大で比帯域 60% で十分実用可能なモデルを開発できた。このモデルを用い、新型フランジを採用したデバイスを製作することで、275-500 GHz OMT の実現は達成される見込みである。この製作は 2018 年度中の実施を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度達成すべき課題であった、高精度・小型の新型導波管接続フランジの試作・評価については、比較的厳しい達成目標であったにもかかわらず、それを達成するための金属切削加工上の工夫をいくつも凝らした結果として、目標を上回る位置決定・平面精度が得られた。本成果の応用により、サブミリ波帯導波管デバイスの全般に対しての実用性能向上が期待できるため、本成果が得られた意義は大きいと考えている。 一方、275-500 GHz OMT を実現するために必要不可欠であった、構造モデルの改良についても、比帯域 60% 超が得られるモデルを開発でき、それより若干狭い比帯域 58.5 % の 275-500 GHz OMT であれば、加工誤差が無ければ確実に実現される状況となった。 これら両者の成果は、本年度中の達成を目標としており、それが予定通り達成された結果となった。ただし、275-500 GHz OMT の製作については、新型フランジの試作に当初予定の 3 倍近いコストを要したことから予算不足となり本年度中実施できず、従って当初計画以上の進展は得られなかった。 また、金属切削加工上の問題点の一つであった、加工平面度の精度向上について、本年度で一定の成果は得られたものの、さらなる改良案としての加工プロセス中の「焼き鈍し追加」を今年度中には検証できなかった。これについては 2018 年度の実施項目に追加することし、これで大きな成果がえられれば、来年度は計画以上の成果があったと言えるだろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017 年度中に達成された、小型・高精度の新型導波管接続フランジと、275-500 GHz よりも広い帯域をカバー可能な導波管直交偏波分離器 OMT の新型構造モデルを用いた、 ALMA band 7+8 OMT を実製作し、その諸特性評価において基準値を達成することを目標とする。 これまでに得られた成果により、この目標は達成される見込みではあるが、金属切削加工上の問題点の一つである加工平面度の精度向上が得られると期待される改良案である、加工プロセス中焼き鈍し追加について取り組み、平面度不足による特性不達成を防ぐ。 これらの目標達成により、500 GHz 以下での比帯域 60% 程度の OMT 開発は基本的にスケールアップで対応可能となる。これが有効となると期待している一例として、現在世界的に開発が進められている Square Kilometer Array ( SKA ) 計画のうち、国立天文台等が検討を進めている 14-26 GHz band 5C ( 比帯域 60% ) への採用が期待でき、コレについてもアプローチする。また、本研究で得られた金属切削加工精度の向上技術を用いることで、サブミリ波帯導波管デバイス全体への実用性能向上が期待でき、論文化を含めた当該手法の採用を電波天文関係者への周知を積極的に進める。
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