電波天文観測装置として広く用いられているヘテロダイン受信機における近年の開発課題のひとつに、比帯域 50% 超への観測帯域幅の拡張がある。特に、天体からの 電波信号を検波器まで損失無く伝送するために必須となる導波管回路は従来狭帯域であり、システム全体の帯域幅を支配的に制限しているため、この解決が必要であった。 本研究では、観測需要が非常に強い275-500 GHz ( 58% ) をカバーする超広帯域の導波管直交偏波分離器の実現を狙い、それを妨げる電気的・構造的設計上の問題解決に取り組んだ。具体的には、① 切削加工面の平面度不足、② 切削加工回路部の座標・軸ズレの 2 点について、加工機械精度の向上に頼らない解決策を模索した。結果として、① 平面度不足については、硬化樹脂治具で対象を固定し研磨角度を完全に固定・再現できる研磨技術により解決され、② 軸ズレについては従来 10 μm 程度あったデバイス接続位置誤差を約 3 μm 程度まで抑制出来る新たな接続機構を実現することで、それぞれ問題要素をいくつか解決することが出来た。 これらの技術開発により、275-500 GHz OMT の製造に成功した。さらに、この広帯域 OMT を円偏波分離器として利用できるアタッチメントを新たに設計・製造し、その機能を確認することも出来た。これにより、強い需要があるサブミリ波帯天文観測において超広帯域の直交・円偏波分離受信機のどちらも提案可能となる見込みであり、今後の天文学の進展への大きな貢献が期待できる。また、無線通信などでも将来的に 300 GHz 超の高周波化が取り組まれる見込みであるが、そうした分野への貢献も十分期待できる。
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