研究実績の概要 |
チャネルロドプシンなどの細胞電位を制御する光遺伝学技術の開発と応用は培養細胞や多細胞生物で進んでいるが、シグナル伝達系を制御するための光遺伝学技術については発展途上の段階である。特に、多細胞生物での技術開発と応用はほとんど行われていない。そこで、本研究では光誘導性二量体化(Light-Induced Dimerization, LID)システムの一つであるPhytochrome B -PIFシステムを線虫Caenorhabditis elegansへ導入し、そのシステムを分子、細胞および個体レベルでの同時解析に応用する。平成29年度においては、線虫へのPhyB-PIFシステムの導入を行うことを計画しており、実際に導入することに成功した。 PhyB-PIFシステムを機能させるには、発色団であるPhycocyanobilin (PCB)が必要である。そこで、まずは精製PCBを外部から添加した時に線虫の体全体へ浸透するかそれを餌に混ぜて検証した。検証には、PhyBの変異体でかつPCBを結合すると赤色光を発するPhyB Y276Hを線虫の腸管、神経系および筋肉に発現させて用いた。結果、外部添加したPCBは腸にのみしか十分浸透しなかった。そこで、開発に携わった4つの遺伝子(PcyA, HO1, Fd, Fnr)導入によるPCB細胞内合成システムを用いたところ(Uda Y et al. PNAS 2017)、神経系、筋肉と腸管で合成されたPCBが見られた。実際に、PCBが合成されている腸管内において、630 nmの赤色光でPhyBとPIFが二量体を形成し、750 nmの近赤外光でそれらが解離することを蛍光イメージングにより確認した。以上のことから、PCBを外部添加しても線虫の体内に浸透しずらいことが判明した。従って、線虫でPhyB-PIFシステムを腸管以外で利用するにはPCB細胞内合成システムが必須であることが分かった。これは、他の動物でも同様かもしれない。
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