本研究は、株主構成と株式市場・企業行動の関係を分析することを目的としている。株式市場と企業行動は密接に関係している。企業は、株式市場で資金を調達するだけでなく、投資家が持つ情報が集約された株価から情報を抽出する。投資家は企業が公開する情報から、株価に関連する情報を抽出する。本研究は、その間にある投資家や株主の行動が企業行動や株価に対して与える影響を分析することを目的としている。 前年度の研究において、支配株主のポートフォリオがより分散されているとき、パフォーマンス感応度が大きいという結果が得られた。これは、支配株主が保有する企業の個別リスクに対するエクスポージャーが小さくなることにより、株主のリスク許容量が大きくなり、経営者がより大きなリスクをとるような報酬の契約を結ぶことが最適となる。 本年度は、企業の支配株主のポートフォリオ選択が、経営者報酬のパフォーマンス感応度に影響を与える理論モデルを発展させた。株主が情報を取得するときにコストが発生する場合や曖昧な情報を回避する場合、株主はポートフォリオを少数の銘柄で構成する可能性がある。経済学において、収益の正確な確率分布が事前にわからないため、経済主体が確率分布の候補を複数持っている状態を「曖昧」な状態と考える。このような「曖昧さ」を回避しようとする投資家は、市場で決定される価格によっては株式を保有しない場合がある。したがって、株式の収益の確率分布が曖昧である場合、支配株主が少数の株式だけを保有する場合が生じうる。このような場合、株主の個別企業に対するエクスポージャーが大きくなり、結果として経営者がリスクを取らないような経営者報酬の体系が選択される。したがって、株式市場における情報の取得可能性が経営者の行動に影響を与えうることが示唆される。
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