研究実績の概要 |
本年度は, 遺伝学的アプローチにより, PI(4,5)P2 の発現調節に重要な Synj1 との遺伝学的な相互作用を観察することにより, Aβによる聴覚低下の分子メカニズムにおけるイノシトールリン脂質代謝調節の重要性を検証した. 方法としては, [Math1E-Aβ42E22G] に Synj1 変異を交配によりヘテロで導入し, 生後4ヶ月から生じる聴力低下が抑制されるか否かを調べた. 聴性脳幹反応 (ABR) による聴力の 測定を経時的に行った結果, 新規 AD モデルマウスに Synj1 変異をヘテロで導入し, PI(4,5)P2 発現量を増加させることで聴力低下が抑制されるか否かを検討したが, 高音域の聴力低下の抑制は認められなかった. 近年, 他グループによる報告では, 神経細胞特異的に発現する Synj1 およびパラログ遺伝子として知られる Synj2 はユビキタスに発現してそれぞれ PI(4,5)P2 の代謝を制御することや, 蝸牛においては内耳有毛細胞に Synj2, ラセン神経節細胞に Synj1 の転写活性があることが示されている. これらの報告と本研究課題の結果には一貫性があり, 本解析系においては, 後シナプスではなく前シナプス(有毛細胞)におけるイノシトールリン脂質代謝調節が重要であることが予想される. そこで現在, Synj2 変異の導入による遺伝学的な相互作用を用いて PI(4,5)P2 の代謝の重要性を検証している. 聴力が回復した場合に, 組織化学的にシナプス結合の変化を経時的に解析することで, Aβによる聴覚低下の分子メカニズムを理解したい.
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