研究実績の概要 |
脳内でのアミロイドβ(Aβ)の蓄積がアルツハイマー病(AD)の原因とされるが、特にその大部分を占める孤発性ADにおいて、Aβがなぜ蓄積するかは不明である。我々は、Aβが蓄積しやすい脳内の領域に特徴があることに着目し、ヒト剖検脳を用いて、Aβの領域分布とAβ代謝に関与する分子の領域分布を比較検討していくことで、ポストシナプスマーカーであるPSD95の領域分布が、孤発性ADのAβの領域分布とよく相関することを見出し、シナプスが何らかの形でAβの蓄積に関与すると想定した(Shinohara et al., Brain 2014)。その分子的実態をさらに解明するため、近年報告されている神経活動依存的なAβ代謝作用に着目して動物モデルでの検討を進めたが、ヒト剖検脳のデータを裏付ける傍証は得られず、むしろ神経活動依存的なAβ代謝自体が特定の条件等でしか起きないことを示唆するプレリミナリーな結果も得られた。そこで本研究では、①この神経活動依存的なAβ代謝を、より生理的な状態を反映するための妥当な実験方法も取り入れてさらに検証するとともに、②シナプスが神経活動以外の機序でAβ蓄積をもたらす可能性も視野に入れ、他の側面にも着目し、動物モデルやヒト剖検脳を解析する、という2つの独立したアプローチを取り入れることで、シナプスが脳内のAβの蓄積をもたらす分子機序を明らかにすることを目的とする。当該年度は、まずこれらの研究に必要な動物モデルやマイクロダイアリシスやELISA等の解析系、ヒト剖検脳などの、導入や立ち上げを行った。その中で、我々が従来用いていたものより、より高感度で安価な、Aβやその前駆体であるAPP代謝物を測定するELISAの導入や改良に成功した。ヒト剖検脳の入手に関しては、倫理委員会などの承認済みであるが、検体を実際に準備する共同研究者の理解や協力が得られるよう引き続き尽力している。
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