研究課題/領域番号 |
17H07420
|
研究機関 | 大阪市立自然史博物館 |
研究代表者 |
松井 彰子 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 学芸員 (00803363)
|
研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
|
キーワード | 地域集団 / 生息環境 / 瀬戸内海 / ハゼ科魚類 |
研究実績の概要 |
種内の遺伝的に固有な地域集団(遺伝的集団)を把握することは、生物多様性の保全に不可欠であるが、海洋生物では、陸上生物と比べ遺伝的集団の把握が遅れており、遺伝的集団構造の効率的な把握方法の開発が望まれる。本研究は、海洋生物の遺伝的集団構造の指標として生息環境に着目し、その有効性を明らかにすることを目的としている。本研究では、モデルケースとして瀬戸内海周辺海域のハゼ科魚類を対象に、生息環境の異なる多種について遺伝的集団構造を調べて比較し、種内の遺伝的分化の程度および遺伝的集団の地理的分布と生息環境との関係を分析する。分析対象は、5つの環境(A:浅場・泥底・暖水性、B:浅場・泥底・冷水性、C:浅場・岩礁・暖水性、D:浅場・岩礁・冷水性、E:深場)の各3種、計15種である。 平成29年度は、11種について国内での採集および遺伝子データの収集がおおよそ完了し、うち8種について遺伝的集団構造を分析した。その結果、集団構造が明らかになった種のうち浅場(環境A・C・D)の種では、地理的な集団構造が強く見られ、日本海沿岸の個体と太平洋沿岸の個体が異なる系統に属する傾向があった。また、瀬戸内海集団の遺伝的な属性(日本海系統と太平洋系統のどちらに属すか)は、環境間で異なっており、岩礁(環境C・D)の種では瀬戸内海集団が太平洋系統に属すのに対し、泥底(環境A)の種では日本海系統もしくは両系統に属していた。一方、深場(環境E)の種では、遺伝的集団の構造化が見られず、海域間で遺伝的な違いはほとんど認められなかった。これらの結果から、瀬戸内海周辺における沿岸性魚類の集団構造は生息環境によって異なっており、瀬戸内海の沿岸生物相の形成史にはこれらの生息環境の違いが密接に関わっていると推察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
標本および遺伝子データ収集、ミトコンドリアDNAの部分領域の解析については、おおむね順調に進んでいる。マイクロサテライトDNAの解析については、プライマー設計が可能な状況にある2種について実験系の確立を予定していたが、実験室の工事が長引いた影響で実験ができず、着手できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度前半をめどに国内での標本収集を終える。国外の標本については、韓国での採集を予定している。韓国滞在期間中に採集できなかった種に関しては、韓国の大学の研究協力者に収集を依頼する。収集状況が芳しくない種については、適宜、同じ環境区分の予備種に変更する。 得られた標本から順次、分子遺伝学的実験に供し、ミトコンドリアDNAの部分領域について集団構造解析を進める。マイクロサテライトDNAについては、実験系を確立し、解析に供する。 平成30年度は研究期間の最終年度なので、遺伝的集団構造と生息環境との関係について定性的な傾向をとりまとめるとともに、モデルの構築を試み、生息環境が遺伝的集団構造を説明する指標となりうるのかを検討する。
|