研究課題/領域番号 |
17H07424
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河内 孝之 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (40202056)
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研究分担者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80273853)
大和 勝幸 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50293915)
山岡 尚平 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (00378770)
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研究期間 (年度) |
2017-10-30 – 2022-03-31
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キーワード | 植物発生生物学 / 配偶体世代 / 性分化 / 性決定 / 長鎖非翻訳RNA / Marchantia polymorpha |
研究実績の概要 |
本研究では、配偶体世代が優占的で分子遺伝学解析に適した苔類ゼニゴケの特長を活かし、陸上植物の性分化と性決定に関する特異性と普遍性を与える機構について研究を進めた。生殖細胞系列を規定する機能をもち、有性生殖を誘導する転写因子BONOBOの発現制御機構を明らかにした。さらに、BONOBO遺伝子発現が成長相を反映したエピジェネティック制御を受けている可能性を見出した。また、植物生理学実験により遠赤色光に依存したゼニゴケの有性生殖誘導が、新規の遠赤色光依存高照射反応(FR-HIR)であることを明らかにした。これは実験室条件では観察されない自然界の長日条件依存的なフロリゲン誘導として近年注目されている現象とも関連し、陸上植物の進化において、環境依存的な有性生殖誘導が成立した過程に新しい知見を加えた。 性染色体に座乗しする配偶体世代の性決定因子の同定を進めた。ゲノム情報に基づく逆遺伝学的アプロ―チにより遺伝子同定に成功した。これは性決定因子として新規性が高く、性染色体や性決定ローカスの進化的誕生に関する知見も与えた。 常染色体に座乗する雌性化を制御する転写因子FGMYBとアンチセンスlncRNAであるSUFを介して、性分化が相互に転換する新規性の高い機構を示した。これまでにSUF lncRNAがtransに作用することや、FGMYBの抑制がSUF lncRNAの構造に依存せず、SUFの転写そのものによることを明らかにできた。 また、FGMYBによる雌性分化制御を解明する目的として標的遺伝子を同定するための誘導発現株や機能解析のための系統を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seq解析から雌性化因子FGMYBが有性生殖誘導と生殖細胞系列発生を制御するBONOBOの制御標的であることを示めした。プロモーター活性は雌雄ともに活性を示した。FGMYBプロモーターをBONOBOのプロモーターに置換したFGMYBコンストラクトを作成し、fgmyb suf二重変異体に導入したところ、変異表現型を相補できた。このことから両遺伝子の制御関係が確認された。 SUF遺伝子座にpolyA付加シグナル配列を挿入し強制的に転写を終結させる系統を作成したところ、SUFの機能が失われた。SUFによる抑制は転写衝突による抑制機構が想定された。SUF-FGMYB遺伝子座を完全に欠失する大規模欠失変異体に領域を切り縮めたゲノム断片を挿入し、相補によって制御に必要な領域を決定した。また、SUF領域内の部分欠失体を作成したところ、FGMYBの抑制にはSUFの転写自体が必要で、特定の配列は必要ないことも分かった。 SUFの発現がメスでは栄養成長段階から転写レベルで抑制されているという結果に基づき、U染色体上にコードされる転写制御因子遺伝子10遺伝子の突然変異体をゲノム編集により作成した。候補遺伝子の破壊株2系統がオスの生殖器托を形成した。この遺伝子をオス株で発現させたところ、雄器托ではなく雌器托を形成した。つまり、この遺伝子はV染色体をもつオス株を雌性化できるFeminizerをコードすることがわかった。 雌性化因子FGMYBにより発現制御される遺伝子を両植物種で同定することで、陸上植物における雌性分化の実体とその進化を明らかにすることが出来ると期待される。そこで、ゼニゴケのFGMYBの誘導型の過剰発現植物を作成した。FGMYB過剰発現体においては、オス化したfgmyb変異体の生殖器の形態が誘導により、ほぼ完全にメスの形態に回復することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
有性生殖誘導と生殖細胞系列決定に作用するBONOBO遺伝子の標的として、FGMYBに加えていくつかの遺伝子が見出された。そのなかで、低分子化合物メチル化酵素をコードする遺伝子があり、変異表現型からBONOBOへのフィードバック制御に関わると予想されたため、研究計画に加える。この解析によって、コケ植物で存在そのものが不明であった新規化合物の生理活性とBONOBOの発現制御に関して重要な視点が加わることが期待される。 同定に成功した性染色体上にコードされる性決定因子Feminizerの分子解剖を試みる。これによってFeminizerの誕生と機能分化に関する知見を得る。Feminizerの相同遺伝子をさまざな植物から単離して機能解析を進める。これによってFeminizerの起源に迫る研究を展開する。 また雌性生殖器官と生殖細胞形成プログラムの実体解明に関する研究を推進する。FGMYB発現誘導系統を用い、短時間のエストラジオール処理に応答したトランスクリプトーム変化をRNA-seqにより解析する。またCut and Run法により、MpFGMYBが直接結合するゲノム領域を同定する予定である。卵細胞を形成できないrkd変異体と野生型のメスの造卵器の比較トランスクリプトームを基にした解析も行う。そして植物における雌雄分化の可塑性について、雌雄性と緑色植物の進化の観点から解析を進める。
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