研究実績の概要 |
(1) hMCT1, 4が認識するリガンドの化学的特性の解析:種々の低分子化合物による阻害実験により、hMCT1選択的な阻害効果を示す基本骨格を見出した。また、hMCT4選択的な阻害効果を示す基本骨格を見出すことはできなかったが、hMCT1, 4の両方に阻害効果を示す有用な基本骨格を見出した。さらに我々は、イソ酪酸骨格を有するフィブラートに着目し、hMCT1, 4に対する阻害効果を検証した。その結果、fenofibrate anion, bezafibrate及びclinofibrateがhMCT4選択的な阻害効果を示した。さらに、bindaritはフィブラートよりもhMCT4選択的かつ強力な阻害効果 (Ki ≒ 30 μM) を示すことが明らかとなった。この研究成果は学術誌に掲載された。 (2) hMCT1, 4の基質選択性を決定するアミノ酸残基の同定:hMCT1, 4の基質輸送経路を予測し、基質選択性を決定する残基の同定を試みた。hMCT1, 4の推定基質輸送経路を構成するアミノ酸残基のうち、TM8のArg残基よりも細胞外側に存在しhMCT1, 4間で保存されていなかったアミノ酸残基に着目し、これらの残基をhMCT1, 4間で置換した変異体を作製し、基質選択性の変動を評価した。作製した変異体のうち、hMCT1-M69L, -F367Yにおいて、その5-OP/L-乳酸輸送活性比がwild-type (WT) よりも低下した。さらに、hMCT1-M69L/F367YのL-乳酸輸送活性はWTの50%ほどまで残存していた一方で、5-OP輸送活性は消失した。このことから、hMCT1においてはこれら2つの残基が基質選択性に関与していることが示された。以上の研究成果について学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で我々は、hMCT1, 4 の基質選択性の違いを決定する分子メカニズムを解明することを目的としてXenopus laevis oocyte異種発現系を活用して種々検討した。当初の予定通り、種々の化合物を用いてL-乳酸の輸送に対する阻害実験を行った結果、hMCT1選択的な阻害効果を示す骨格、およびhMCT1, 4の両方に阻害効果を示す有用な骨格を見出した。さらにhMCT4選択的な阻害効果を示す化学構造にベンジルインダゾール骨格とイソ酪酸がリンカーで結合した構造が有用であることを学術誌で報告した。また、当初の予定通り、hMCT1, 4の属するmajor facilitator superfamilyで保存された基質輸送経路の情報をもとに、hMCT1, 4の基質輸送経路を予測し、基質選択性を決定する残基の同定を試みたところ、hMCT1, 4のTM8 Arg残基よりも細胞外側に存在する基質選択性に関与する残基を見出し、学術会議で報告した。これらの知見は、機能性タンパク分子の基質認識性を分子構造の観点から理解する重要な基礎的知見となり得るものであり、トランスポーター研究の発展に大きく貢献したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の検証で同定したbindaritのhMCT4に対する阻害様式は非競合阻害であったため、今後はhMCT4選択的な競合阻害剤および基質の探索を行う。具体的には、今年度の検証で明らかとなったhMCT4に対する強い阻害効果が認められた化合物を母核とするような化合物を選定し、hMCT4選択的な阻害効果を有するかを検証する。 また、今年度の検証により、TM8 Arg残基よりも細胞外側に存在する基質選択性に関わる残基 (M69, F367) が明らかとなった。しかしながら、基質選択性の変動の程度から考えると、他にも基質選択性に関わる残基が存在することが推察された。そこで、TM8 Argよりも細胞内側に存在する推定基質輸送経路を形成する残基のうちhMCT1, 4間で保存されていない残基に着目し、これらの残基をhMCT1, 4間で置換した変異体を作製し、基質選択性の変動を検証する。
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