研究実績の概要 |
季節タイマーがはたらいている個体と切れた後の個体との間で発現量が異なる遺伝子を探索するため、孵化から2世代目の個体と、実験室内で世代を繰り返した後の個体をそれぞれ長日および短日条件で飼育した。これらの虫が羽化した後、頭部からtotal RNAを抽出し、RNAシーケンスを行った。これによって1サンプルあたり50-100 bpからなる約40,000,000の配列を得た。 時計遺伝子のRNAiによって次世代の生殖型が変化することを確かめるため、まずは発育段階におけるどの時期に処理すれば次世代の生殖型が変化しうるのかを調べた。長日で育っている個体を4齢幼虫の時に短日へ移して子を産ませ、その子が2齢幼虫の時に再び長日へ戻せば多くの胎生メスが、戻さなければ多くの卵生メスが産みだされることがわかった。そこで、この2齢幼虫に時計遺伝子cycleの2本鎖RNAを注射したが、次世代の生殖型に明瞭な影響は見られなかった。また、3齢幼虫に時計遺伝子cycleおよびperiodの2本鎖RNAを注射して長日および短日で飼育したが、これらの遺伝子の発現量に明瞭な減少が見られなかった。現時点ではRNAiによる遺伝子発現の抑制はうまくいっていないと言える。 実験室内で世代を繰り返すことで季節タイマーが切れた後の個体を、春の様々な時期に京都の自然の日長と温度のもとに移して飼育した。これらの虫の多くは卵生メスやオスを産み、最も遅いものは5月にオスを産んだ。この結果から、季節タイマーがなければ春に不適な両性生殖型を産んでしまうので、季節タイマーがそれを防いでいるという仮説が支持された。
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