研究課題/領域番号 |
17J00021
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 達 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | バフィロマイシン / 液胞型ATPアーゼ / 固体NMR / フッ素標識 |
研究実績の概要 |
本研究では液胞型ATPアーゼ(以下V-ATPase)と呼ばれる酵素の特異的阻害剤であるバフィロマイシン(以下Baf)の作用機序解明を目指し、両者が形成する複合体の構造を固体NMRと呼ばれる測定手法により解析することを目的に設定した。本年度はその前段階としてV-ATPaseの単離精製、および脂質膜中におけるBaf誘導体の挙動解析に取り組んだので以下にその詳細について報告する。 V-ATPaseの単離精製法として、(1)V-ATPaseを含む液胞膜画分の単離および(2)遺伝子操作により発現させたタグを用いたカラム精製の二種を検討した。その結果、前者に関しては活性のあるV-ATPase含有画分を単離することに成功したものの、画分中に含まれるV-ATPaseの量が固体NMR測定には不十分であったため詳細な解析には至らなかった。それに対して後者の場合では前者より高純度なV-ATPaseを得ることに成功した。 またV-ATPaseの精製と並行して脂質膜中におけるBaf誘導体の挙動解析を実施した。一般に阻害剤の活性は阻害剤と標的タンパク質との結合様式によって議論されることが多い。しかしBafの結合部位は脂質膜中に位置するため、Bafの活性にはV-ATPaseとの結合様式に加えてBafと脂質間の相互作用も影響すると考えられる。そこで本研究では活性の異なるBaf誘導体を人工脂質二重膜に埋め込み、その挙動を固体NMRにより解析した。その結果、活性のある誘導体と活性のない誘導体の運動性(あるいは分子の配向)に有意な差が見られた。この結果はBafの活性発現における脂質膜親和性の寄与を実験的に示唆した初めての例であり、今後さらなる検討を重ねることでBafの活性発現機構の詳細な理解につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は固体NMRを駆使してV-ATPase-Baf複合体の構造を解析することである。前述の様に、本年度において固体NMR測定に必要不可欠となるV-ATPaseの単離精製系を確立し、その量的供給の目処を立てることに成功している。V-ATPaseはその複雑さから取り扱いが困難なタンパク質の一つであり、その供給経路を確立できたことは重要な進捗といえる。また本年度は固体NMRにより脂質膜中でのBaf誘導体の挙動を解析することで、これまで詳細に解析されることのなかったBafの活性に対する脂質膜親和性の寄与を示すことにも成功している。この結果は複合体の構造情報を直接与えるものではないものの、Bafの活性発現機構を俯瞰的に理解する上で重要な知見といえる。以上より現在のところ本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はV-ATPase存在下でのNMR解析を推進し、研究目的であるV-ATPase-Baf複合体の構造を決定する。具体的にはまず、昨年度から実施しているV-ATPase単離精製の条件を引き続き検討し、固体NMR測定に必要なV-ATPaseの量的供給を実現する。その後、多重標識を施したBafを用いた固体NMR測定を実施することでBafの構造情報を取得する。なお当初はV-ATPase存在下でのBafの構造情報のみを目的としていたが、昨年度の結果を受け、脂質膜中におけるBafの構造についても同様に解析することを計画している。これによりBafの活性発現機構の全体像を明らかとすることが期待される。さらに単離精製したV-ATPaseにも化学標識を施し、これと標識化Bafを用いた固体NMR測定を実施することでV-ATPase-Baf間の距離情報取得も試みる。最終的には得られた構造情報を総合したドッキングシミュレーションによるV-ATPase-Baf複合体の構造決定を計画している。
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