研究課題
マウスの受精において,精子ゲノムは受精後直ちにプロタミンが除かれ,卵子由来のヒストンが取り込まれヌクレオソーム構造が形成される。さらにほぼ同時期にゲノムワイドなDNA脱メチル化が引き起こされるが,これら精子ゲノムの再プログラム化機構の詳細は不明である。近年,この精子ゲノムへのヒストンの取り込みとヌクレオソーム構造の形成に必須の因子はヒストンシャペロンHIRAであることが報告された。昨年度に申請者らは,ヒストンシャペロンHIRAが制御するヒストンバリアントH3.3の取り込みはヒストンの化学的修飾であるヒストンH3のN末端から17番目アルギニン残基の非対称性ジメチル化 (H3R17me2a)が重要であることを明らかにし,その制御因子である母性タンパク質も同定した (Hatanaka et al., Cell rep, 2017)。そこで,申請者らはHIRAに着目し,受精卵特異的に相互作用する候補因子を同定した。受精卵においてこれら候補因子の役割を明らかにすることで受精後の一連の分子機序の理解をめざす。本年度は,受精卵における候補因子の局在を明らかにし,その候補因子は受精直後の前核期胚においてのみクロマチンに結合していることを見出した。受精卵においてその候補タンパク質に関する知見はなく機能未知であった。そこで,受精卵において候補因子をノックダウンすべく,Trim21及び標的タンパク質を認識する抗体を顕微注入するTrim-away methodに着目し,これが機能することを示した。
2: おおむね順調に進展している
まず,受精直後の前核期胚において,前年度に同定した受精卵特異的なHIRA相互作用候補因子の局在を免疫細胞化学的解析により調べた。その結果,候補因子の中には前核期胚において特異的に核内に局在し,さらにその母性タンパク質はクロマチンへの結合を示すことを見出した。次に,受精卵における該当タンパク質のノックダウンを行うために,標的タンパク質を比較的短時間でノックダウンできるTrim-away法に着目した。この方法はTrim21のRNAと標的タンパク質を認識する抗体を顕微注入することによりユビキチンプロテアソームpathwayを引き起こし,速やかにタンパク質を除去できるため,母性タンパク質が豊富に存在する卵におけるノックダウンには最適と考えられる。この方法が機能するかどうかを確認するために,母性タンパク質が豊富に存在し受精後核への局在が認められるStellaタンパク質を標的とし,そのノックダウン効率を調べた。その結果,Trim21及び抗体を顕微注入した胚においてStellaタンパク質の分解が確認でき,核への局在も除去された。我々のsingle-cell RNA-seqのデータにおいて,StellaはMII期卵において3番目に豊富であることから,卵において我々の候補因子もまたTrim-away法が機能することが考えられた。次に,候補因子のノックダウン胚を作製するために,標的因子を認識する抗体を注入しそのノックダウン効率を免疫細胞化学的解析により調べた。その結果,若干のノックダウンが確認されたが,Stellaのような完全な除去には至らなかった。この検討項目として,抗体の特異性や最適な抗体濃度の再検討などが考えられる。来年度は,該当タンパク質の機能解析に焦点をあてることで,受精卵で引き起こされる一連の再構築機構における新たな知見の獲得を試みる。
前年度までの解析結果から,受精卵において未だ機能が明らかになっておらず,受精直後の前核期のみで核に局在する母性タンパク質の同定に成功した。最終年度について,計画では受精卵における候補因子の機能解析後に同定できた因子を強制発現させることで,体細胞の核の再構築への応用を試みる予定であったが,本年度も引き続き受精卵における候補タンパク質の機能解析を行う。ノックダウン方法の改善策としては進捗状況においても既述の通り,抗体の特異性や最適な抗体濃度の再検討を行う。標的タンパク質を認識する良い抗体が見つからない場合,ペプチド抗体の作製を試みる。そのタンパク質に最適なエピトープ部位が見つからないなどの原因で良い抗体が手に入らない場合は,コンディショナルノックアウトマウスの作製も視野に入れて解析方法の改善を試みる。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Reproduction and Development
巻: 64 ページ: 161~171
10.1262/jrd.2018-005