持続性社会の実現が我が国のみならず世界全体での解決課題として認識されている現在において,たとえ複雑な構造をもつ医薬品類であっても,これらに耐えうる合成手法でなければならない.いかに優れた戦略による合成であろうと,多段階の一つずつを,可能な限り短縮,効率化する努力は怠るべきではない.反応収率や触媒回転効率,選択性の観点からだけでなく,操作性,安全性,単離効率などにおいても満足するものでありたい.このような状況下,我々は光学活性なピリジンカルボン酸類縁体とカチオン性CpRu錯体とを組み合わせると,アルコールとアリルアルコールとの脱水型アリル化反応を触媒することを見出した.従来の脱塩型反応とは異なり,添加剤を加える必要がなく,簡単に対応する光学活性環状アリルエーテルを合成できる.申請者は,本触媒反応の詳細な理解を目指し,上記の触媒を用いるω-ヒドロキシアリルアルコールの環状アルケニルエーテル化反応を取りあげて,その機構解明研究に取り組んだ.NMR実験,X線結晶構造解析,同位体標識実験,熱量分析の結果から,本触媒サイクルにおいて,アリルアルコールのルテニウムに対する酸化的付加が律速段階であり,その活性化エネルギーは23.5 kcal/molでこと.反応熱は2.1 kcal/molであり,水の脱離を伴うため定量的に反応が進行すること.触媒の環状構造,エーテル酸素の低い水素結合形成能により,生成物からの酸化的付加による阻害もないこと.基質触媒複合体,および各種πアリル錯体においてルテニウムは不斉中心となることを実験的に証明した.本結果は新しい触媒設計コンセプトを提示するものとして注目される.
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