自閉スペクトラム症(以下、自閉症)は脳発達の異常が発症に関与すると考えられる神経発達障害である。発症の分子基盤は不明な点が多く、根本的な治療法が存在しない。近年、遺伝統計学的研究によってde novo突然変異が孤発性自閉症発症に大きく寄与する可能性が示されている。自閉症関連遺伝子POGZは、報告されているde novo変異の数が最も多い遺伝子であり、POGZと自閉症との関連性が強く疑われるが、脳発達における機能およびde novo変異がPOGZの機能に与える影響は不明であり、POGZの機能異常の自閉症発症への寄与は未解明である。そこで、de novo変異によるPOGZの機能異常が自閉症発症のリスクになる可能性の解明を目的として検討を行っている。 平成30年度において、自閉症患者由来のde novo変異ヘテロノックインマウスは社会性行動時において大脳皮質の過活性化を示すこと、およびAMPA受容体阻害薬による興奮性シグナルの抑制によってヘテロ変異マウスの社会性行動の低下が回復することを見出した。 そこで令和元年度では、POGZが大脳皮質の神経分化を制御するメカニズムを解明するため、自閉症患者iPS細胞およびヘテロ変異マウス胚由来の神経幹細胞におけるRNA-seqおよびマウス由来神経幹細胞におけるChIP-PCRを行い、POGZが遺伝子発現の制御を介して神経分化を調節している可能性を見出した。また、生後4日齢の仔マウスを母マウスから隔離した際に、母マウスを呼ぶために発する超音波ultrasonic vocalization (USV) を測定した結果、ヘテロ変異マウスのUSVのパターンが野生型マウスに比べて乱れており、母親を呼ぶためのコミュニケーション能力が低下している可能性が示された。 なお、以上の本研究の成果はNature Communicationsに掲載されている。
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