研究課題/領域番号 |
17J00218
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井村 英輔 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | キイロショウジョウバエ / エクジステロイド / 神経-内分泌メカニズム / 前胸腺 / 変態 |
研究実績の概要 |
ステロイドホルモンは、多細胞生物の発生に重要な役割を担う。ステロイドホルモンが適切なタイミングで機能するには、ステロイドホルモン生合成器官に対して働きかける神経-内分泌メカニズムが重要である。ショウジョウバエを含む昆虫の主要なステロイドホルモンはエクジステロイドと呼ばれ、脱皮と変態の誘導に必須である。これまでに、幼虫期のエクジステロイド生合成器官である前胸腺には、2種類の神経(PTTH産生神経とSE0PG神経)が直接投射し、エクジステロイドの生合成を制御することが知られている。しかし、これら2種類の神経だけでエクジステロイド生合成の精緻な制御がなされているとは考え難い。そこで本研究では、ショウジョウバエの新規前胸腺投射神経の同定を目指した。 様々な種類の神経をマーキングできるトランスジェニック系統のスクリーニングを実施し、新たに同定された2種類の前胸線投射神経に焦点をあて、ショウジョウバエの発育調節に関わる新たな神経-内分泌メカニズムを追究した。それぞれの神経ペプチドを発現するニューロンの機能、およびこれらの神経ペプチドの受容体の機能を遺伝学的手法と生理学的手法を用いて検討し、いずれもショウジョウバエの幼虫から蛹への移行過程でのエクジステロイド生合成に影響することを示した。さらに、米国ハワードヒューズ医学研究所Janelia Research Campusに2ケ月間滞在して、海外研究者との共同研究によって、神経の脳内における接続関係の詳細な解析にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特にPigment Dispersing Factor (PDF)および Corazonin (Crz)という神経ペプチドに焦点を当てて、ショウジョウバエの発育調節に関わる新たな神経-内分泌メカニズムを追究した。 従来、pdf変異体は発育異常を示さないとされているが、発育タイミングに関する精緻な解析はなされていない。そこでpdf変異体の脱皮と変態のタイミングを観察したところ蛹化が1日遅れた。しかし、pdf変異体においてPDFシグナルの有無を確認したところ、脳PDF細胞のシグナルが変異体で消えた一方で、側心体の細胞群ではシグナルの低下は観察されなかった。。 Crz神経機能を阻害した個体の発生を観察したところ、発育のタイミングに異常が見られない一方で、蛹の体サイズが増大した。予想外なことに、crzr遺伝子発現領域を解析したところ、crzrは前胸腺では発現しない一方で、前胸腺に直接投射するPTTH神経で発現していた。そこPTTH神経特異的にcrzr遺伝子の機能を阻害した個体の発育を観察したところ、蛹の体サイズが増大した。そこで、Ca2+イメージング法を行い、CrzペプチドのPTTH神経の作用の有無を検討した。Crzペプチドを投与すると、PTTH神経のCa2+レベルの上昇が観察された一方で、前胸腺では観察されなかった。さらに、米国ハワードヒューズ医学研究所Janelia Research Campusで扱うことのできるFly EMシステムを用いて、Crz神経が脳内神経とどのような神経ネットワークを構築しているかを詳細かつ網羅的に解析した。その結果、Crz神経が前胸腺とPTTH神経と神経連絡をもつことが示唆された。以上の結果は、Crz神経がPTTH神経を介して前胸腺での基底レベルのエクジステロイド生合成制御を担っていることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究において、Crzペプチドが脳内のインスリン産生神経に作用することが示唆されている。また、インスリン産生神経が、基底レベルのエクジステロイド生合成の制御を担うHippoシグナル伝達経路の上流に位置することも報告されている。Crz神経、インスリン産生神経、及びPTTH神経のクロストークについて今後検討する。 Crzペプチド投与に伴うPTTH神経内のCa2+レベルの上昇が、crzr遺伝子の機能阻害で見られなくなるかを検証する。また、オプトジェネティクスを利用した実験も今後行う予定である。 Fly EMシステムを利用した解析により、Crz神経が前胸腺およびPTTH神経と神経連絡をもつことが強く示唆された一方で、Crz神経から放出される神経伝達物質の種類までは電子顕微鏡画像データからは特定することはできない。特にCrz神経から前胸腺に作用する神経伝達物質に関しては、表現型解析からも特定することはできておらず、今後も解析を続ける予定である。 Crz神経に入力する神経やその上流に関しては未解明である。Crz神経に入力される因子を特定することで、Crz神経によるエクジステロイド生合成の環境適応的調節機構の解明を目指す。
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