本研究の目的は、酸化亜鉛(ZnO)ナノワイヤをZnO膜中に導入することで、ナノワイヤ界面でのフォノン散乱増大による熱伝導率の低減、及び低次元構造による出力因子の増大を同時実現することにある。 昨年度、ナノワイヤを導入した“ZnOナノワイヤ埋め込み構造”とナノワイヤを含まない“ZnO膜”の出力因子を比較した。結果、ナノワイヤを導入することで、ZnO膜と比較してゼーベック係数の大幅な増大を観測し、出力因子を2倍以上増大することに成功した。 今年度は、1上記、出力因子増大機構の解明、2ナノワイヤ導入による熱伝導率低減効果の実証を行った。以下、具体的内容を述べる。 1出力因子増大機構の解明。 低温下(70-300 K)における移動度、ゼーベック係数の温度依存性の結果、キャリア輸送は界面に律速されており、その界面では、20 meV程度のエネルギー障壁が存在することが明らかになった。TEM-EDX観察の結果、ナノワイヤはコアシェル構造を有し、そのコアとシェルの界面はエピタキシャル界面であることが確認され、そこでは、局所的なZn濃度の減少が観測された。このZnドーパント濃度変調されたコアシェル界面が作るエネルギー障壁により、ゼーベック係数が増大し、出力因子増大が実現されたと考えられる。 2 ナノワイヤ導入による熱伝導率低減効果の実証。ナノワイヤ面密度: 1×109 cm-2程度のナノワイヤを導入した“ZnOナノワイヤ埋め込み構造”とナノワイヤを含まない“ZnO膜”の熱伝導率を比較したところ、それぞれ17.5 Wm-1K-1、21.3 Wm-1K-1と測定された。この結果、ナノワイヤを導入することで、約20 %の熱伝導率低減に成功した。これは、ナノワイヤと膜の界面でのフォノン界面散乱が促進されたことによると考えられ、戦略通り、出力因子増大と同時に熱伝導率低減にも成功したと言える。
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