研究課題/領域番号 |
17J00332
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山口 敦史 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 吸着 / ナノ粒子 / コロイド / 粒子間相互作用 / レオロジー / タンパク質 / 不均一な表面 / 物質移動 |
研究実績の概要 |
本研究は,農業工学的な物質輸送の予測・制御技術の高度化に資するため,異符号に帯電した無機・有機コロイドのヘテロな混合懸濁液のレオロジー特性を,粒子間相互作用のメカニズムと大きさの観点から定量的に明らかにすることを目的としている.具体的には,モデル系としてシリカ粒子とリゾチームを採用し,実験と理論解析を用いて研究を進めている.これまでの研究から,リゾチームの吸着機構がシリカ粒子間の相互作用を決める重要な要因であるとの着想を得た.そこで平成30年度は表面分析の専門家であるバイロイト大学のPapastavrou教授のもとに滞在し,吸着機構に関する研究を行った.主な成果は以下の通りである. 当該年度前半では,リゾチームのようなナノサイズの粒子の吸着に対する基板の荷電量の影響について研究した.電気化学水晶振動子マイクロバランス(EQCM)を用いて,球状高分子電解質であるポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーの吸着量を,センサーの金表面の電位を系統的に変化させながら測定した.測定値と最新の吸着理論モデルであるthree-body random sequential adsorptionモデルによる計算値を比較することで,PAMAMの最大吸着量に対する基板の荷電量の影響を評価し,理論モデルの妥当性を示した.本研究の成果は,当該分野の最高レベルの学術雑誌に論文として投稿する予定である. 当該年度後半では,リゾチームの吸着機構に関する研究を行った.EQCMを用いたリゾチームの吸着量測定を行い,リゾチームの吸着においても基板の荷電量を考慮した三体間相互作用が最大吸着量に影響を与えることを示した.加えて,水晶振動子マイクロバランスと原子間力顕微鏡を組み合わせた実験から,シリコン平板上ではリゾチームがランダムな配置ではなく表面でいくつか集まって吸着していること,配置の変化が吸着量の変化に比べて緩やかに進行することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究から,リゾチームの吸着機構がリゾチームの吸着したシリカ粒子間の相互作用を支配する重要な要因であるとの着想を得た.そこで,研究課題の2年目となる平成30年度においては,リゾチームの吸着機構の研究を優先して行った.その過程で,リゾチームの吸着における三体間相互作用や配置の重要性を示すだけでなく,モデルナノコロイドとしてPAMAMデンドリマーを用いた吸着の基礎研究を行い,最新の吸着理論モデルの妥当性を示しその展開を図るなど,当初の予定を上回る成果を得た. 一方で,リゾチームの吸着機構の解明を優先したことにより,当初予定していた粒子間力の測定については遅れが出ている.そこで,平成31年度には,粒子間力の測定としてリゾチームが吸着したシリカ粒子によって形成された凝集体の破壊強度測定を行う.凝集体の破壊強度の測定法は所属研究機関内で確立されており,当初予定していた原子間力顕微鏡を用いた粒子間力の直接測定に比べて短時間で行うことが可能であると考えられる.また,レオロジー量は粒子間力の中でもとくに粒子を引きはがす際に必要な力に支配されると考えられることから,フロックの破壊強度測定は適切な測定方法であるといえる. 上記の通り,研究計画については当初の予定から変更があったが,優先して行った研究では成果が得られており,研究の進捗は概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までの研究から,リゾチームの吸着したシリカ粒子間の相互作用にはリゾチームの吸着機構左右されること,とくにリゾチームの配置が影響することが推察された.そこで平成31年度には吸着実験と粒子間力測定を並行して行う.また,平成31年度は本研究課題の最終年度にあたるため,得られた結果を速やかにまとめ,論文として発表する.具体的な研究計画は以下のとおりである. 吸着実験は水晶振動子マイクロバランスによる吸着量および吸着速度の測定と,原子間力顕微鏡による吸着したリゾチームの配置の測定を組み合わせることで,リゾチームのシリコン基板上での配置の変化が吸脱着量に与える影響を検討する.実験はリゾチームの暴露時間,pH,イオン強度を系統的に変化させて行う.この実験によって得られたリゾチームの配置の影響を考慮することで,リゾチームの吸着したシリカ粒子間の相互作用のメカニズムを明らかにする. 粒子間力測定として,リゾチームの吸着したシリカ粒子によって形成された凝集体の破壊強度測定を行う.破壊強度は,発達した凝集体を含む懸濁液を屈曲部をもつ流路内に通液し,破壊された凝集体の最大径から算出する.実験はリゾチームの添加量,pHを系統的に変化させながら行う.凝集体の破壊実験を行う際に凝集体の構造が観察できることから,当初予定していた静的光散乱を利用した凝集体の構造解析は行わない.一方で,当初予定していなかった実験として,レオメーターを用いて懸濁液のレオロジー特性を反映する流動曲線を取得する.これまでに得られた降伏値および流動曲線と凝集体の破壊強度を比較検討することで,粒子間力とレオロジー量である降伏値および粘度を結び付ける.さらに,吸着機構から予測された粒子間力の発生メカニズムと合わせて考察することで,懸濁液のレオロジーを粒子間力の大きさとそのメカニズムの観点から定量的に議論する.
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