自動車や電子デバイスの軽量化需要などを背景に,金属と樹脂の接合技術が広く求められるようになっている.特に金属表面粗化と樹脂射出成形からなる成形接合と呼ばれる手法は,材料選択性の高さなどから大きな注目を集めている.本研究では,成形接合において金属表面構造のサイズが接合強度や樹脂の転写状態に与える影響を明らかにすることを目的としている. (1) 陽極酸化処理による大径構造の作製:前年度までに,陽極酸化処理を用いて数十ナノメートル程度の構造を形成し,樹脂成形条件と接合強度の関係などを評価した.さらに大きなサイズの構造について評価するために,陽極酸化処理とエッチング処理を併用することで最大で300ナノメートル程度の構造を作製した. (2) 射出成形条件による接合強度変化の評価:(1)で作製した大径構造を用いて接合実験を行ったところ,20MPa前後の引張せん断強度が得られた.また,樹脂射出速度と接合強度の間に負の相関があることが明らかとなった.これはこれまで数十ナノメートルの構造のみで見られていた傾向と同じであり,数百ナノメートルまでといった広い範囲でも同じ傾向があることを示した. (3) 走査透過型電子顕微鏡(STEM)による接合界面の分析:成形品の接合部分をSTEMを用いて分析し,樹脂転写状態や化学結合性を評価した.まずマイナス100度程度の低温状態でイオンミリング法を用いることで接合部分の薄片試料を作製した.STEMによる観察で,金属表面構造の孔径と同程度の深さまで樹脂が転写されていることが明らかとなった.また元素分析等の結果では,陽極酸化皮膜と樹脂の間には化学結合は認められなかった.
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