研究実績の概要 |
「銅触媒による炭素-水素結合の切断を鍵とする含窒素複素環化合物の合成」を目指し、今年度は脱炭酸カップリングを利用した、銅塩による芳香環化合物の直接官能基化反応の開発を試みた。我々はこれまでに、安価で取り扱いが容易な銅塩存在下、8-アミノキノリン型の二座型配向基を有するアレーン類とアゾール類の炭素-水素結合切断を伴う直接的ビアリールカップリング反応が進行することを見出している (Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 9896.)。しかし、そのカップリングパートナーは比較的酸性度の高いアゾール類に限られていた。そこで、本研究では基質の適用範囲の拡張を目指し、脱炭酸カップリングに注目した。その結果、銅塩存在下、アミノキノリン型の二座配向基を有するベンズアミドとオルトニトロ安息香酸を用いると、炭素-水素結合の切断を伴う脱炭酸アリール化反応が進行し、ビアリール骨格を効率的に構築できることを見出した (Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 5353.)。本反応により得られるニトロ基を有するビアリール生成物は、更なる変換を行うことによって、カルバゾールやN-Hフェナントリジノン、フェナントリジンなど、様々な有用含窒素複素環化合物へと変換することができた。更に、炭酸カリウムを添加することで、脱炭酸C-Hアリール化と、続く環化反応が進行し、フェナンスリジノン誘導体を一挙に合成できることも見出した。また、反応機構に関する研究を行ったところ、二座配向基は脱炭酸過程にも必須であることを突き止めた。この形式の反応は、貴金属であるパラジウムを用いても未だ達成されておらず、銅塩特有の新たな反応性を開拓したものである。
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