フェノールは製薬や材料、食品の分野で重要な化合物群であるため、その効率的な変換反応の開発は重要な研究課題である。フェノールの直接的な官能基化法として、芳香族求電子置換反応が古くから用いられている。また近年では、ラジカル種を用いた官能基化反応も報告されている。しかし、これらの反応では、求電子種がフェノールの電子豊富なオルト位及びパラ位の双方で反応するため、位置選択性や基質の適用範囲に改善点が残されている。 これらに代わる手法として、フェノールの酸素原子上に導入した配向基を足掛かりとする、オルト位選択的C-H官能基化が研究されている。これらの反応では、主として単座配向基が用いられている。しかし、これまでパラジウムやロジウムのような高価な金属触媒を用いる必要があった。 一方、二座配向基を用いることで、単座配向基では困難であった炭素ー水素結合の切断を伴うカップリング反応が近年報告され始めている。多くの研究者によって、カルボン酸やアミンに対する多くの二座配向基が開発され、いまやC-H官能基化はカルボン酸やアミン修飾の強力な方法論となっている。それに対して、フェノールに対してこのような二座配向基の概念を利用したC-H活性化反応はほとんど研究されていない。唯一の例として、量論量のプラチナを用いたメタラサイクル形成が報告されているが、触媒反応への展開は全く行われていない。 このような背景のもと、安価な遷移金属触媒を用いたフェノールのC-H結合官能基化を達成するために、種々の二座配向基を検討した結果、銅触媒及び空気存在下、フェナントロリン型の二座配向基を有するフェノール誘導体とジアリールアミンを用いると、C-H結合直接アミノ化反応が進行することを見いだした。また、銅塩存在下、同様のフェノール誘導体とオルトニトロ安息香酸を用いると脱炭酸アリール化反応が進行することも見いだした。
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