研究課題/領域番号 |
17J00407
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鍋島 国彦 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 剛体 / ロッキング応答 / 転倒限界 / 物理パラメター同定 / 捩れ振動 |
研究実績の概要 |
本年度における主な研究成果は以下の2点に要約される. 1) 剛体のロッキングおよび転倒限界に関する既往研究の多くは,実験および時刻歴応答解析に基づく数値解析による検討が主であり,転倒限界に関する理論的な研究は少ない.また,その多くは対象モデルと入力に関するパラメトリックスタディであるため,数値的安定性や多大な計算負荷などの問題点を孕んでいる.これらの問題点に対して,「断層近傍地震動の主要部分のダブルインパルスへの置換」という方法を導入することで,剛体のロッキング挙動を単純な自由振動の組み合わせとして表現し,転倒限界に関する理論的な取り扱いを容易にした.さらに,力学的エネルギーの平衡則・角運動量保存則を用いることでロッキング応答および転倒限界入力レベルを閉形表現で見出すことに成功した.これらの成果により,既往研究において懸念されていた数値的安定性や計算負荷の問題が解消され,さらに,入力振動数と転倒限界入力レベルとの関係性(共振・非共振時の差違)が理論的に説明することが可能となった. 2) 剛性偏心を有する建物を対象とした安定的かつ簡便な物理パラメター同定手法を構築した.本手法は,FFT等により容易に得られるフーリエ変換のみを用いているため,同定に際して高度な数学的知識や経験を必要としない.従って,使用性という観点では有利な手法であると言える.また,信頼性の高いモード情報(1次固有円振動数)に基づき,同定に使用するデータを選定しているため,安定した同定結果を得ることが可能となった.なお,数値実験・模型実験を通して同定精度が良好であることを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では,研究課題を遂行するにあたり,「断層近傍地震動の主要部分のダブルインパルスへの置換」という方法を導入することで,剛体のロッキング応答および転倒限界に関する新たな理論を展開した.本理論では入力をインパルス信号として置換しているため,応答は単なる自由振動の組み合わせとして表現され,転倒限界に関する理論的な取り扱いが容易となっている.さらに,入力振動数と応答振動数の非共振状態における,ロッキング応答の閉形解を導出することに成功した.この点は既往研究との大きな相違点であるとともに優位な点である. さらに本年度では,研究実施計画で述べたように,鉛直軸回りの問題である捩れ振動を伴う建物のシステム同定に関する理論を展開した.この手法では,フーリエ変換のみを用いているため,従来の手法のように同定に際して高度な数学的知識や経験を必要とせず使用性に優れていると言える.また,同定に使用するデータをモード情報に基づき選定しているため,安定した同定精度を有する手法となっている. 以上の成果が得られたという点で,研究は当初の計画以上に進展していると言える.また,これらの成果は日本建築学会や日本建築学会近畿支部研究発表会,査読付き国際専門誌’Frontiers in Built Environment’にて発表した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究では,「ダブルインパルス入力に対する剛体の転倒限界」に関する理論展開および「剛性偏心を有する建物を対象とした物理パラメター同定手法」の構築において,当初の計画以上に進展した.しかし,「ダブルインパルス入力に対する剛体の転倒限界」に関する研究は数値実験に留まっており,実験的に理論の妥当性を検証していない.また,「剛性偏心を有する建物を対象とした物理パラメター同定手法」に関する研究では,各次モードが近接している場合や二軸偏心の場合等を想定しておらず,検討不十分な点がある. 以上のことを踏まえ,平成30年度の研究では,「ダブルインパルス入力に対する剛体の転倒限界理論」の模型実験による精度検証および「剛性偏心を有する建物を対象とした物理パラメター同定手法」の二軸偏心建物への拡張とその実験的検証を行う.
|