2019年度は、インフルエンザウイルスのM2蛋白質の細胞質領域との相互作用を介してゲノムパッケージングに寄与する可能性が昨年度の研究で示唆された宿主因子CACYBPに着目して研究を進めた。Crispr-Cas9を用いてCACYBPノックアウト細胞を作製し、種々のウイルス株を用いてそれらの増殖への影響を調べた。結果、WSN株ではA549とA549ΔCACYBPとで増殖効率にあまり変化がなかったのに対し、pdm2009株やH3N2株(Victoria)ではCACYBPのノックダウンによりウイルスの増殖効率が大きく減少したことがわかった。 また、インフルエンザウイルスのゲノムパッケージング機構の解明という観点から、M2細胞質領域と同じくパッケージングへの関与が先行研究で示唆されているPB2分節vRNA内部領域欠損変異、特に244DI変異に着目して研究を進めた。初めに、244DI変異ウイルスをクローン培養する実験系を構築し、その成果を論文にまとめて発表した。次に、244DI分節によるウイルス増殖抑制の詳細な機構の解明を目指して、クローン培養した244DIウイルスを用いて性状の解析を進めた。クライオ電子顕微鏡解析やRT-qPCRによるvRNAの相対定量等の手法を通した性状解析の結果、244DI変異により244DI分節以外の7分節の取込効率が大きく減少しており、244DI変異がインフルエンザウイルスのゲノムパッケージングに影響を及ぼす可能性が示唆された。 このように2019年度は多角的な視点からインフルエンザウイルスのゲノムパッケージングについての研究を進めた。また、論文の投稿や学会での発表を通して、これらの研究成果を外部に積極的に発信した。
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