研究課題/領域番号 |
17J00520
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中島 侑江 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 健康寿命 / 高齢者 / 住宅 / 高齢者施設 / 室温 / 断熱性能 |
研究実績の概要 |
本研究では室内温熱環境が居住者の健康寿命/要介護状態に及ぼす影響およびそのメカニズムを解明することを目的として、「実測・アンケート調査」「統計データ解析」「経済性評価」の3つのステップに沿って研究を進めている。2年目となる今年は、特に(1)実測・アンケート調査データの多変量解析と、統計データ解析の中でも(2)統計データの基礎分析を並行して実施した。 (1)実測・アンケート調査データの多変量解析:初年度に実施した複数地域にまたがるフィールド調査によって得られた、介護施設を利用する高齢者の「自宅の室温」や「要介護認定状況」、健康寿命の交絡因子である「個人属性、生活習慣など」のデータのうち、2年目となる本年度は特に高齢者の「虚弱」に着目し分析を進めた。虚弱とは重度の要介護状態の発生や死亡といったアウトカムの前段階の健康状態に関する指標として老年学や公衆衛生の分野で広く用いられる指標であり、今回室内温熱環境との関連を検討した一連の分析内容は本研究の大きなオリジナリティの1つと言える。分析の結果、寒冷な住宅に住み、さらに経済的な不安を抱える高齢者は虚弱のリスクが高いことを示すに至った。また、虚弱は「閉じこもり」「転倒(=身体機能低下)」「低栄養」といった複数の構成概念からなる評価指標だが、住宅室温は特に転倒に代表される身体機能の低下に対して影響を及ぼすことを追加分析によって明らかにした。 (2)統計データの基礎分析:限られた対象におけるケーススタディでは得られたエビデンスの適用範囲も限られてしまう可能性が懸念されるため、本研究では日本全国を網羅した統計データの活用を予定している。初年度に開示請求が完了した国土交通省の住宅土地統計調査や厚生労働省の介護保険給付費実態調査の統計資料に関し、本年度は基礎分析としてそれぞれの全国平均や分布などの確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「実測・アンケート調査」「統計データ解析」「経済性評価」の3つのステップのうち、2年目となる本年度は実測・アンケート調査で得られたデータの分析を重点的に進めたことで室内温熱環境と健康寿命/要介護状態の関係性を示唆するアウトプットを成果として得ることができた。 また、統計データ解析および経済性評価を進める上で必要となるデータベースの構築を進めたことで、翌年度の研究の進展の足がかりとすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は(2)統計データ解析および(3)経済性評価を中心に分析を進める予定である。(2)統計データ解析では市区町村別に要介護認定状況や住宅ストックの状況を把握し、その関連について検討する。(3)経済性評価では居住環境を改善することで得られる「要介護認定そのものが予防され、健康でいられることによる医療・介護費の削減効果」と「要介護状態の悪化が予防され、重度な要介護者に対して必要となる医療・介護費の削減効果」の双方を金銭的価値として明示することを目指す。これらの検討にあたっては近年多様化する老年期の居住場所(自宅、サービス付き高齢者住宅、介護施設など)によって居住環境と健康寿命/要介護状態の関係性が異なることが考えられるため、細やかなケース分けなどによるデータの精査が必要となる。 また、(1)実測調査では筋力や血圧といった健康指標の収集も並行して行っている。しかし室内温熱環境からの影響以上に個人差の影響の大きいこれらの指標に関してはデータ解析に必要なサンプル数の確保やデータの精査作業が十分に進められておらず、引き続き来年度の課題として研究を進める予定である。
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