研究実績の概要 |
緑内障濾過手術は眼圧下降効果の高い手術として多く行われているが、術後の創部線維化がこの手術を失敗に導く大きな原因となっている。創部の線維化をコントロールすることが重要な課題である。 今回、線維化に関連する因子として生理活性脂質であるS1Pに着目し、濾過手術周術期の房水中のS1P濃度、および結膜やテノン嚢における線維化反応を検討した。濾過手術の術前には房水中にS1Pは存在しなかったが、濾過手術後の房水中にS1Pが増加していることが示された。また、S1Pにより結膜線維芽細胞の遊走は抑制され、筋線維芽細胞への分化が促進され、コラーゲンの発現が促進された。これらの結果から、細胞遊走は主にS1P2受容体を介して抑制、線維化反応はS1P1, 2, 3受容体を介して活性化されていることが示唆された。S1P受容体アンタゴニストは、緑内障濾過手術後の創部線維化抑制に効果を示す可能性があると考えられた。以上を、論文として発表した。 ここまでは濾過手術後の主に出血由来と考えられるS1Pの短期的な影響を調べたものであるが、中・長期的にS1Pが創部の線維化に関わるかどうかに関して、さらに研究を進めた。TGF-β1を使用して結膜線維芽細胞に刺激を与えることで、S1Pが動いている可能性が示され、結膜線維芽細胞におけるTGF-β1とS1Pのクロストークが示唆された。こちらに関しても今後検討の上、論文として発表予定である。
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