本研究では、多接合太陽電池のボトム層に用いられる高価なGe基板を安価なプラスチック上GeSn薄膜で代替することを目指し、プラスチック等の絶縁基板上におけるGeSn薄膜の高品質合成に取り組んできた。最終年度となる本年度は、主に以下の成果が得られた。 (1)GeSn薄膜の電気的特性の深さ方向依存性 太陽電池において、光励起キャリアは膜の面直方向に取り出されるため、GeSn膜全体の電気的特性のみならず、その深さ方向分布も重要である。そこで、ガラス基板上に合成したGeSnをCMP法により薄膜化しながら、Hall効果測定を行った。その結果、前駆体を加熱していない試料ではGeSn/SiO2基板界面で高い正孔密度を示し、欠陥が局在していることが判明した。一方、前駆体を加熱した試料では、正孔密度は深さ方向に均一であり、欠陥は一様に分布していることを明らかにした。これは、前駆体の加熱堆積が固相成長GeSnの正孔移動度向上や正孔密度低減のみならず、基板界面における欠陥低減にも寄与していることを示唆する結果である。 (2)GeO2下地挿入によるGeSn薄膜の高品質化 結晶核発生サイトとなる基板(下地)に着眼し、固相成長GeSn薄膜の更なる高品質化を検討した。ガラス基板上にGeO2をスパッタリング堆積した後、GeSn前駆体を分子線堆積した。この結果、GeO2を下地層として用いることで正孔密度を1016 cm-3オーダーまで低減することに成功した。GeSnにおいては、欠陥が正孔の発生源となることから、GeO2下地層挿入により、GeSn中の欠陥を低減できたことが示された。この正孔密度は、これまでに合成されてきた多結晶Ge系薄膜の中でも最低クラスの値であり、優れた太陽電池特性が期待される。
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