研究課題/領域番号 |
17J00581
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
岩田 大生 東京農業大学, 国際食料情報学部, 特別研究員(PD) (00829806)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | チョウ / シジミチョウ科 / ヤマトシジミ / 表現型可塑性 / 冷却処理 / 遺伝的同化 / 遺伝子発現解析 / イメージング |
研究実績の概要 |
夏の青森県深浦町で大発生したヤマトシジミの変化型(外流れ型、内流れ型、消失型)に対して、Otaki et al.(2010, BMC Evol Biol 10, 252)は、野外における遺伝的同化の可能性を実験的に示した。このヤマトシジミの変化型と同様の斑紋変異を示すチョウが他種においても報告されているが、その原因は明らかとなっていない。そこで、本研究では野外において遺伝的同化が機能するかだけでなく、他種でみられるヤマトシジミと同様の斑紋変化の原因にも迫った。また、チョウの斑紋形成機構や多様化機構に関しても調査した。以下3点が主な実験内容である。(1)外流れ型の配偶行動上の利点・欠点を総合的に検証するため、冷却処理により誘導した外流れ型を用いて「オスによるメス選択実験」と「メスによるオス選択実験」の両方を実施した。(2)シジミチョウ科に共通する斑紋変化機構を明らかにすることを主な目的として、ベニシジミ、ヒメシルビアシジミ、ウラナミシジミを用いて冷却処理実験を実施した。さらに、冷却処理による変化型の斑紋形成過程のインターバル撮影にも成功した。また、過去の斑紋形成過程の動画データを解析して論文発表しただけでなく、Zizeeria knysnaの飼育データをもとに論文発表等も行った。(3)2017年度にヤマトシジミの外流れ型と正常型の翅組織(蛹)からのTotal RNAの抽出と、ライブラリ作成とシーケンス(Hiseq 2500使用)まで実施したので、2018年度にはin silico解析を実施する予定であったが、大きな進展はなかった。しかし、2018年度にはこの種のオスとメスの翅組織(蛹)から抽出したTotal RNAを用いてシーケンスを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述した(3)に関しては、遺伝子発現解析を研究協力者に依頼しているが、諸事情により、正常型と外流れ型のin silico解析がほぼストップしている状態である。しかし、オスとメスの遺伝子発現データを得たとの報告を2018年度に受けており、現在はこれらのin silico解析も行ってもらっている。一方、(1)の行動実験に関しては基本的に順調に進んでおり、「オスによるメス選択実験」のデータだけでなく、「メスによるオス選択実験」のデータも得ており、過去に行った行動実験のデータと合わせることで、外流れ型の利点・欠点に関して総合的に検証することが可能となっている。ただし、データ数がまだ十分とはいえないので今後も追加データを取っていくことで、外流れ型における同類交配の有無が明らかになるものと思われる。(2)の生理学的実験に関しても順調に進んでおり、ヤマトシジミ以外のシジミチョウにおいても冷却ショックで変化型の誘導ができただけでなく、ベニシジミにおいて変化型の斑紋形成過程のインターバル撮影法を確立したため、2019年度から他のシジミチョウでも変化型の斑紋形成過程を捉えることができるようになった。また、進化生物学研究所のチョウの標本調査もさせてもらっており、多くのシジミチョウでヤマトシジミと同様の変化型も確認できているだけでなく、シジミチョウ以外のチョウにおいても斑紋が流れることが確認され、共通のルールのもと斑紋変化が生じる可能性がある程度支持された。 研究成果に関しても論文3報、書籍(分担執筆)1点、学会発表2回となっており、以上を踏まえると、2018年度の研究もおおむね順調に進展したものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)の外流れ型における同類交配の検証に関しては、「現在までの進捗状況」で前述したように行動実験のデータが十分でないため、2019年度でも「オスによるメス選択実験」と「メスによるオス選択実験」を行い、追加データを取る予定である。また、これまで記録した配偶行動の動画データや、実験に用いたサンプルの翅サイズ等の形態情報も収集し、論文化に向けて解析作業を行う。(2)の生理学実験も軌道に乗っているが、サンプル数が十分にないため、ベニシジミ、ウラナミシジミ、ヒメシルビアシジミを用いてさらに冷却ショック実験を行うだけでなく、斑紋形成過程のインターバル撮影も追加で行う予定である。さらに、2018年度にうまく飼育することができず、生理学的実験や撮影などに使用することができなかったツバメシジミ、クロマダラソテツシジミに関しても2019年度に再挑戦する予定である。(3)に関しては、遺伝子発現解析を共同研究者に依頼しているが、長らくストップしている状況であるので、可能であれば申請者自身で解析を進めることも予定する。また、変化型のインターバル撮影時に、ラップフィルムを被せた斑紋(蛹の翅)が冷却処理によってあまり変化しない可能性が浮上した。遺伝子発現データがばらつく原因はこのラップによるものだと考えられる。そこで、今後の遺伝子発現解析に利用するサンプルの質を向上させるため、斑紋形成への影響が少ない基材を調べることにする。
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備考 |
【その他の発表】 1:岩田大生. チョウの斑紋形成と進化. Evo-Devo 青年の会2018 (10 年目特別企画 若手フラッシュトーク & ショートトーク), 東京都目黒区, 2018年8月21日. 2:岩田大生. チョウの翅の色模様形成と進化機構の解明に向けて. 第6回生態進化発生コロキウム, 東京都目黒区 , 2018年12月28日.
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