研究実績の概要 |
ヤマトシジミの変化型(外流れ型、内流れ型、消失型)は夏の青森県で大発生したことがある。この変化型の大発生に遺伝的同化が関わっている可能性が、Otaki et al.(2010, BMC Evol Biol 10, 252)によって示唆されている。ヤマトシジミの変化型と類似の斑紋変異を示すチョウが他種でも報告されているが、綿密で体系的な実験が行われ証明されているわけではない。本研究では遺伝的同化が野外において斑紋進化に関わっているかを体系的に研究するとともに、斑紋変化や斑紋形成機構に関する実験も実施した。(1)行動実験、(2)生理学的・薬理学的実験、(3)遺伝子発現解析の3つが2017年度から3年間を通して実施する主な研究であるが、2019年度には(2)に専念した。その結果、ジョウザンシジミ、クロツバメシジミ、アオタテハモドキなど計5種において、ヤマトシジミの変化型に類似の斑紋変化個体を得ることができた。生理学的実験では、斑紋形成機構の解明も目的としているため、2019年度には多くのチョウ(種)で正常型の斑紋形成過程を比較することにした。その結果、シジミチョウ科のクロマダラソテツシジミ、ジョウザンシジミ、クロツバメシジミの前翅裏、タテハチョウ科のアオタテハモドキ、タテハモドキの前翅表において斑紋形成過程のタイムラプス動画を作成することができた。蛹のクチクラが厚く、これまで撮影不可能であったアオタテハモドキ、タテハモドキの前翅の眼状紋を、デジタルマイクロスコープで撮影したところ、鱗粉レベルで模様の上書きが観察できた。その結果、シンプルな濃度勾配モデルが現実のチョウの斑紋形成過程にはあまり適切でないことが支持された。以上のように、本研究により、チョウの斑紋変化機構の一部を証明できただけでなく、斑紋形成機構の解明に有益な研究基盤も構築できた。
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