研究課題/領域番号 |
17J00587
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
竹川 俊也 北海道大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 刑法 / 責任能力 / 量刑 / 触法精神障害者 / 原因において自由な行為 / 自招性精神障害 |
研究実績の概要 |
本研究は,イギリス(イングランド・ウェールズ)刑法における量刑論について,現地でのリサーチ等を通じて歴史的背景や理論的根拠を対象とした研究を行うことにより,近時の実務で大きな問題となっている,触法精神障害者に対する量刑の判断枠組みを明らかにすることを目的とする。 今年度は,触法精神障害者の量刑判断枠組みを提示する準備作業として,自招性精神障害の刑法的評価の問題に立ち入った検討を試みた。その結果,精神障害に自招性が認められる場合にわが国の裁判実務では,犯行に及ぶ意思を事前に有していたかを問わず,刑法39条の適用が排除されていること,換言すれば,自招性精神障害の場合にも刑法39条の対象たりうることを前提に「原因において自由な行為」の理論を構成する日独の学説とは異なり,わが国の裁判実務は,自招酩酊の場合に責任無能力とされる余地を端的に排除する英米の判例学説の立場に近いことを明らかにした。 この成果は,北大刑事法研究会(2018年4月21日「自ら招いた精神障害の刑法的評価:「原因において自由な行為」論からの脱却と展望」)および早稲田大学刑事法学研究会(「自招性精神障害の刑法的評価」2018年5月12日)で報告し,オーディエンスからのフィードバックを得た。また,上記の問題意識の下で英米法圏の判例・学説に検討を加えた論稿「自招性精神障害の刑法的評価:『原因において自由な行為』論の再定位(1)(2・完)」を,北大法学論集69巻6号,70巻1号に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,以下に挙げる理由により,当初の期待通り研究の進展があったと評価できる。第一に,わが国の量刑論に関する学説や,裁判員制度の導入を契機として公表された刑事裁判官による論稿の分析を着実に進めた。第二に,自招性精神障害の刑法的評価の問題に取り組み,その成果を北大刑事法研究会および早稲田大学刑事法学研究会にて公表し,北大法学論集に投稿した。第三に,継続して取り組んでいる責任能力論について,単著『刑事責任能力論』を刊行した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,イギリスにおける90年代以降の量刑立法を分析する予定である。2003年刑事司法法が制定されるに至った過程に検討を加えることで、量刑に対する現在の基本的な思考枠組みを把握する(当初の計画では2年目に遂行予定の内容だが,自招性精神障害の問題の検討を前倒ししたために,3年目の研究内容として実行する)。そして、こうした立法の背後にある量刑思想について、ジョエル・ファインバーグ博士やアンドリュー・フォン・ハーシュ教授(フランクフルト大学)の著作を中心とした外国法文献の収集と精読に多くの時間を費やす予定である。
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