2018年度は、前年度の研究成果をふまえて、バタイユにおける「思考のエロティシズム」の内実を明らかにし、思考とエロスの関係史のなかにバタイユ思想を位置づけるべく他の哲学者・思想家との比較検討を行った。 当該年度の研究成果は、2018年11月に立命館大学文学研究科に提出した博士論文「脱ぎ去りの思考:ジョルジュ・バタイユにおける思考のエロティシズム」にすべてまとめられているが、その一部であるバタイユとジャック・デリダをめぐる箇所は、2018年5月にカナダ・モントリオールで開催されたデリダや脱構築思想にかんする国際学会Derrida Today the 6th Conferenceでの口頭発表に基づいた内容となっている。そこではデリダのいう「古名の戦略」(古い名をそのままのかたちで用いながら、置き入れる文脈などを変えることで意味を変化させる戦略)を取り上げたが、博士論文ではバタイユがデリダに先んじてこの「古名の戦略」を行っているとともに、あらゆる哲学者・思想家がこれまでくりかえし行ってきた思考方法であると論じている。博士論文では、バタイユにおける「思考のエロティシズム」を「脱ぎ去りの思考」と名づけ、着せられた衣服をとどまることなく脱ぎ去っていくように、既存のものをたえず問いへと投入しなおす思考が「非‐知」であることを明らかにした。そして、このような思考がプラトン以来の「知を愛し求める」こととしての哲学となんら相違ないことを、プラトンからマルクス・ガブリエルまでを比較対象とすることで明示した。 以上をとおして、本研究はバタイユにおける「思考のエロティシズム」の内実を解明し、「知を愛し求める」という動的な「哲学すること」の哲学史のなかにバタイユ思想を位置づけるに至った。
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