研究課題/領域番号 |
17J00622
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂根 駿也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 熱電材料 / ナノドット / シリコン / 鉄シリサイド / 歪み |
研究実績の概要 |
本研究では、新規Si系熱電材料の開発に向けて、独自の極薄Si酸化膜技術を用いて鉄シリサイドナノドット含有Si薄膜を作製し、熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数の3物性を独立制御することを目的として研究を行っている。まず、鉄シリサイドナノドットにはCoを、Si層にはPを分離ドーピングした試料の作製を行う予定であったが、鉄シリサイドナノドットにはドーピングをせずに、Si層にのみPドープした試料を作製し、性能評価を行った。ドーピングの方法にはイオン注入法を用いた。イオン注入法を用いてドーピングをすることで、ナノドット含有Si薄膜を作製した後に、ドーピングを行うことができるため、注入ドーズ量を変化させることで、同じ構造で異なるキャリア密度の試料を作製することが可能となる。 熱電物性の評価の際、ナノドットの材料をGeにした試料や、ナノドットのないSi/SiO2積層構造を作製し、鉄シリサイドナノドットの試料との比較を行った。すると、熱伝導率はナノドットの種類による変化がほとんど見られなかったのに対し、電気伝導率、ゼーベック係数に関しては、ナノドットの材料によって異なる値を示した。その結果、出力因子は鉄シリサイドナノドットの試料で最大の値を示した。この結果を考察するために、ゼーベック係数と電気伝導率のキャリア密度依存性から理論的な解明を試みた。すると、Geナノドットの試料においてSi層に生じる歪み等によってこの差を説明可能であることが分かった。この結果、鉄シリサイドナノドットを用いることで高いゼーベック係数、電気伝導率を保ったまま、低い熱伝導率を達成することに成功した。すなわち、低い熱伝導率と高いゼーベック係数、電気伝導率を同時に得ることができ、鉄シリサイドナノドット含有Si薄膜を用いることが、3物性の独立制御につながることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄シリサイドナノドット含有Si薄膜において、Si層にのみPをドーピングした試料を作製すると、ナノドットの種類によって電気伝導率とゼーベック係数に異なるキャリア密度依存性が見られることが分かった。この原因を理論的な考察を導入して解明し、最適な構造を見出すことができたことは、非常に大きな進展であるといえる。 また、鉄シリサイドナノドットにはCoを、Si層にはPを分離ドーピングした試料の作製を行う予定であっため、Coの蒸着源(クヌーセンセル)を分子線エピタキシー装置に取り付け、立ち上げを行った。当初、多少の真空トラブル等があり、少し試料の作製までに時間がかかってしまった。しかし、実際に、Coの蒸着源の動作を確認するために、Si基板上にCoを蒸着することで、コバルトシリサイドの形成を確認し、さらに鉄シリサイド薄膜にCoをドーピングした試料の作製を行い、Coを添加しても鉄シリサイド薄膜の作製に成功した。これらのことから、予定の、鉄シリサイドナノドット含有Si薄膜における、鉄シリサイドナノドットにはCoを、Si層にはPを分離ドーピングした試料の作製には至らなかったが、Co蒸着源の準備は整ったため、ここまで順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
鉄シリサイドナノドットにはCoを、Si層にはPを分離ドーピングした試料の作製を行う前に、まず、実際のCoドープした鉄シリサイドの性能を調べる必要があるため、Si基板上へCoドープした鉄シリサイド薄膜の作製を行った。今後は、まずその熱電特性の評価を行う予定である。詳細に性能を調べるために、Coのドープ量を変えて作製して熱電特性を評価することで最適なCoドープ量を導き出し、そして、Siよりも高いゼーベック係数を示すことを確認する予定である。 その後、上記の鉄シリサイドナノドットにCoをドーピングした試料の作製を行う予定である。鉄シリサイドナノドットにした際に、作製温度や蒸着量などの作製条件が多少異なることが考えられるため、まずは反射高速電子線回折法、走査型トンネル顕微鏡を用いて鉄シリサイドナノドットの形成を確認し、最適なナノドットの作製条件を見出す予定である。 さらに、ナノドットの作製に成功すれば、実際に鉄シリサイドナノドットにはCoを、Si層にはPを分離ドーピングした試料を作製し、その構造、熱電特性の評価を行うことで、これまでのナノドット含有Si薄膜と比較して高い出力因子を示すことができると考えている。
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