研究課題/領域番号 |
17J00636
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
檜垣 充朗 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 非圧縮性粘性流体 / Navier-Stokes方程式 / 外部問題 / 安定性 / 解の漸近挙動 / 境界層 / 境界層理論 / 時間周期解 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究計画に基づき,物体周りの流れを記述するNavier-Stokes方程式に関連した問題に取り組んだ.具体的には,2次元非対称外部領域において,スケール臨界な空間減衰$O(|x|^{-1})$をもつ定常流の安定性を考察した.2次元外部領域におけるスケール臨界流の安定性解析は,Hardyの不等式に関連する非有界領域に特有な困難のため,領域または付与データに対称性等の仮定を課した結果に限られていた.本研究では,線形化方程式に対応するレゾルベント問題を解析することで,領域の形状と安定性の定量評価の関わりを明らかにした.結果として,単位円外部の微小摂動で与えられる非対称外部領域において,空間遠方で旋回流の構造を持つスケール臨界流の安定性の証明に成功した.また,パリ高等師範学校のIsabelle Gallagher教授および京都大学の前川泰則准教授との共同研究により,高速回転する2次元円板の周りを流れる時間周期的Navier-Stokes流の存在定理を確立した.領域の対称性により,任意の回転速度に対して厳密定常解が存在する.適当な外力を与えることにより,この厳密解を主要部とする時間周期解の構成に成功した.さらに,円板が高速で回転する場合において,流れの境界層構造と回転による流れの軸対称化効果の二つを定量的に明らかにした.本結果に関連する問題として,回転円板の外部に静止壁がある状況を考察した.静止壁における流体の滑り無し境界条件のため,境界層解析を二つの境界付近で同時に行う必要があり解析はさらに複雑となる.領域に対称性を課した円筒領域で問題を考察し,非線形問題の時間周期解の構成に成功した.また,ダルムシュタッド工科大学のMads Kyed教授およびThomas Eiter氏と共に,並進と回転を伴う3次元物体周りの時間周期流の数学解析に関する国際共同研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2次元非対称外部領域におけるスケール臨界流の解析において,その安定性評価と領域の形状を関連付けることができた.このような関係は研究計画の段階では予想されていなかったため,大きな成果といえる.さらに,安定性が証明された定常流のクラスは,2次元回転物体の周りの時間周期的Navier-Stokes流と関連しており,証明で用いられた手法の一部は時間周期解の安定性解析に実際に応用可能である.そのため,当該分野への更なる貢献につながる成果を挙げており,これは大きな進展である.また,高速回転する円板周りの2次元流れの存在と構造定理を証明する際に,境界層解析を基礎とした線形評価の手法を確立した.計画当初の方針は,解表示に対して漸近解析を遂行し極限関数を明らかにするものであったが,新たなアプローチは流体力学の観点から自然であり,さらに関連した問題へ統一的な視点を与える点で優れている.実際,このアプローチを応用することで,円筒領域における回転円板周りの2次元流に関する存在・構造定理を得た.これらは当初の研究計画を超えた進展である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,2次元回転物体の周りを流れる時間周期的Navier-Stokes流の安定性解析に取り組む.これまでの研究により,安定性評価と領域の形状の関係が明らかになるなど,証明の基本的な方針が得られた,その一方で,回転座標系におけるNavier-Stokes方程式の解析は,線形化作用素の生成する半群が解析的でないことに起因する多くの困難が伴う.そのため,対応するレゾルベント方程式から安定性評価を導出することは今後の大きな課題である.また,平成30年度の研究計画に基づき,壁法則を用いた表面の粗い固体壁付近の流れの数学解析へも取り組む.
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