研究課題/領域番号 |
17J00642
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
岡畑 美咲 甲南大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | C. elegans / 低温馴化 / 温度応答 / カリウムチャネル |
研究実績の概要 |
本研究では、代表的なモデル動物である線虫C.elegansを用いて動物の温度馴化メカニズムの解明を目指し、2つのアプローチから解析を行った。生物は環境の変化に適応するために、遺伝子情報を変化させて進化してきた。本研究では、動物の温度適応性の獲得に重要な、遺伝子の多様性を明らかにするために、代表的なモデル動物のひとつである線虫C. elegansを用いて解析を行った。C. elegansは世界各地で野生株が単離されている。これら多型株は生息地の環境に適応するために、遺伝子多型とその組み合わせを変化させており、異なる表現型を示すことが知られている。我々は多型株の温度適応能力の差に着目し、解析を行った。遺伝学的解析を行ったところ、AB1株の温度馴化スピードに関わる多型遺伝子はI番染色体にマッピングされた。マッピング領域をさらに縮めるため、I番染色体の多数の組換え体を単離し、表現型解析と次世代DNAシーケンサーを用いた組換え体のゲノム解析の結果、原因遺伝子候補は15個に縮まった。候補遺伝子の15個のうち、8つの遺伝子に関して既存の変異体が存在したため、低温馴化テストを行った。その結果、異常は見られなかったため、原因遺伝子候補は7つに絞られた。 温度馴化に関わる新規遺伝子を同定するために、DNAマイクロアレイ解析を利用した。野生株N2株を23℃から17℃に飼育温度を変化させた場合に発現が変動する遺伝子として、79個の遺伝子が同定されており、このうち15系統に関して温度馴化スピードテストを行った。その結果、KQT型カリウムチャネルの変異体であるkqt-2変異体において、25℃で飼育後15℃に3時間シフトした際に、野生株と比べて生存率が高くなる異常を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線虫C.elegansを用いて動物の温度馴化メカニズムの解明を目指し、2つのアプローチから解析を行い、世界各地のC.elegansの温度馴化に関わる原因遺伝子多型のマッピングと、温度馴化スピードに関わるカリウムチャネルKQTの解析が順調に進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
動物は目まぐるしく変動する環境温度を感知し適切に応答する。本申請者は、産地の異なるC. elegans多型株の温度馴化を定量化し、温度馴化の多様性を生み出す原因遺伝子多型をI番染色体の中央にマッピングした(Okahata et al., Journal of Comparative Physiology B, 2016)。さらに現在、候補遺伝子をわずか15個まで絞り込んだため、温度馴化の多様性に関わる遺伝子多型を同定し、動物の温度適応の新規機構と進化的側面を明らかとする。 もう一つのテーマとして、低温馴化にKQT型カリウムチャネルであるKQT-2が関与することを明らかにしたため、KQT-2の低温馴化における機能ニューロンを同定し、Ca2+インディケーターを使い温度馴化時の温度メモリーに関わるニューロンの活動を定量化する。さらに、KQT-2の上流と下流の分子シグナリングを同定する。 具体的には、下記の通りである。 1. 温度馴化の多様性に関わる遺伝子多型が数個まで絞られたため、原因遺伝子多型のN2バックグラウンドの変異体をCrisper/cas9法を用いて単離し、それらの変異体が低温馴化に異常を持つか解析する。その後に、異常が見つかった変異体に多型株の当該遺伝子を導入して、表現型の変化を解析することで、温度馴化の多様性との相互関係を解析する。 2. kqt-2 変異体を用いてカルシウムイメージングなどの生理的解析や電気生理学的解析を組み合わせ、カリウムチャネルを介した温度馴化の神経回路と、組織や分子レベルで温度馴化への役割を同定する。
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